第24章 びゐどろの獣✔
「なになに…【前略。其後何日となく御無沙汰に相過変転激敷当節──】…杏寿郎、同僚相手にこんな丁寧な手紙書いてるの」
「それでも簡潔化させて早急に仕上げたものだ。走り書き故にすまない不死川、読み難かっただろう!」
「んなこたァどうでもいいんだよ。それよりここだッ」
「ここ?」
「どこだ?」
実弥が指差す文面を、二人で覗き見る。
手荒な扱いにより紙は皺が寄っていたが、それでも読み起こすことはできた。
「ざい…?」
「在々郷中(ざいざいごうちゅう)だ」
「ざ…【在々郷中、不審成る者参り候。血鬼術影沼発動これ有り候節、負傷わば弟吞まれし──】…これ」
「うむ。蛍の影鬼が、あの巨大な魚を造り上げた時のことだ」
蛍の持つ知識でも、その手紙の内容が何を示しているのか理解できた。
千寿郎と共に影沼へと沈んだ時のことだ。
「なんで不死川に…」
「お館様に同じ手紙を宛てた。報告すべき事柄だと俺が判断したからだ。そのついでに不死川にも飛ばしたものだ」
「あ。前に数日要を見かけなかったのって、もしかして」
「うむ、要には酷だが長距離を飛んでもらった」
「んなこたァどうでもいいんだよ。それよりここにしっかり書いてんだろうが弟負傷ってなァ!」
「そうだ弟だ! 俺の!!」
「……あ?」
「俺の弟のことだと言ったんだ。煉獄千寿郎。その弟が蛍との歩幅を誤り負傷した。なに、事故だったが!」
「……」
「…もしかして千くんのことを玄弥くんと解釈間違えしたんじゃ…?」
「そうなのか? 不死川は弟思いだな!」
「…っ」
「あ。(黙った。てことは図星か)」
「俺も早急に書き上げた為、説明が足りなかった。これは俺の落ち度だ! すまない!」
不意に杏寿郎の片手が、蛍の脚の支えを外れる。
「だが玄弥少年はあの悲鳴嶼殿の下で任務に当たっているんだ。柱の中の誰よりも安全な場所だろう!」
「っ~…!」
笑顔でぽむち、と肩に手を乗せる杏寿郎に、わなわなと実弥のその肩が震えた。
解釈違いをした羞恥からではない。
「だからそう心配せずと」
「テメェの弟のことを緊急で知らせてくるんじゃねェェエエエ!!!」
盛大な怒りからだ。