第24章 びゐどろの獣✔
颯爽と駆ける杏寿郎の脚では、すぐに見慣れた煉獄家の塀が見えてきた。
能楽の羽衣だけでもあんなに喜んでくれたのだ。神幸祭の話をしたら、千寿郎はどんなに喜ぶだろう。
自然と蛍も高揚する。
墓参りに誘った時のように、今度は杏寿郎一人で槇寿郎の下へと行かせない。
共に誘うのだ。
もし本当に自分の声に耳を傾けてくれるのならば、少しでもできることをしたい。
眠りこけた自分達に着物を羽織らせてくれたあの優しさが、槇寿郎には残っている。
ならば、きっと。
「…見つけたぜェ」
晴天の空。
見慣れぬ影が空を切り舞うのを、杏寿郎と蛍の目が同時に見つけた。
「わ…っ」
「む!」
ぐっと足先に力を込めて急ブレーキをかける杏寿郎に、蛍の体が勢いで軽く浮く。
飛ばすまいと蛍の脚を担いだ腕に力を込めたまま、杏寿郎は体を逸らすように顎を退き仰け反った。
ざんっと目の前に影が落ちてくる。
仰け反る杏寿郎擦れ擦れに舞う風は、まるで斬撃のような衝撃だった。
その中心で、ゆらりと立ち上がる影の持ち主。
鋭い眼孔は見開いたまま、目の前の杏寿郎を凝視する。
「何処ほっつき歩いてやがったァ煉獄!!」
色素は薄く、癖の強い髪。
目尻の睫毛の長い、血走った瞳。
何よりも強烈に視界を刺激してくるのは、その肌に無数に走る大小の傷跡だ。
鋭い声と共に圧を飛ばす気配を前にして、杏寿郎は口角をぐんと上げた。
「不死川じゃないか! 久しいな!!」
其処に立っていたのは鬼殺隊の風柱。
不死川実弥、その男だったからだ。