第24章 びゐどろの獣✔
「ぁ…でも、いいのかな…神隠し、鬼の仕業かもしれないのに。こんな、楽しんでいて」
嬉しくて堪らないと高揚していた蛍の空気が、不意に途切れる。
蛍らしいと思える心配に、杏寿郎は優しく語り掛けた。
「此処の神幸祭は、数日かけて行われるんだ。その中でも大きな祭事となる神輿渡御(みこしとぎょ)は、凡そ昼間行われる。鬼の活動時間ではないんだ、その時くらいは楽しんでも罰は当たらないだろう?」
「あの、杏寿郎がさつまいも持って観てたって言う?」
「うむ。それに人が集まる所には、鬼も引き寄せられる。神隠しの手掛かりが、よもや見つかる可能性もあるかもしれない。神幸祭に参加する大義名分は十分に立つ」
「成程…」
杏寿郎の言うことは尤もだった。
それならば後ろめたく思う必要もない。
「じゃあ、千くんも誘っていいかな」
「勿論! 俺も千寿郎を連れて行く気でいた」
「それとね、槇寿郎さんも」
「父上、か?」
「うん。二歩目、引き出そうって話したでしょ? 家族皆で参加していた行事なら、槇寿郎さんも足を向けるかもしれないなって」
「ふむ…そういえば神幸祭に誘ったことはなかったな」
「そうなの?」
「家族との思い出が強い場だ。母上のことを思い出させてしまうかと思ってな」
「ぁ…じゃあ誘わない方がいいかな…」
「いや。蛍という新しい家族ができたんだ。新たな一歩としての神幸祭なら、父上も腰を上げて下さるかもしれない」
蛍を背負い歩む足が、弾むように軽くなる。
前屈みの姿勢故に地面を見つめていた視線が、上を向く。
「誘おう、父上も。俺と蛍と千寿郎と父上と、皆で神幸祭に行こう!」
「わっ…」
「祭りはすぐだ! 早速帰って話さねばな!」
同じに弾む声は、まるで村の活気に染まっていくようだった。
祭りなのだ。
哀しみを背負う場ではなく、皆で楽しむ場なのだから。
小走りに進む杏寿郎の背中で、蛍の体が上下に揺れる。
落とさないようにと番傘を握り、片腕で杏寿郎の肩に掴まり。
「…うんっ」
蛍もまた声を弾ませた。
誰とも向き合おうとしなかった槇寿郎が、蛍とは同じ酒を酌み交わせたのだ。
望みは、きっとある。