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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔


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「ん、ふふ」

「む。まだ笑うか」

「ごめんごめん。さっきの杏寿郎の真顔が、本当に可愛くて」


 真顔で「かわいい」と復唱していた顔を、思い出すとつい頬が緩んでしまう。
 優しい背の揺れに身を預けながら、蛍はくすくすと顔を綻ばせた。

 愛おしいと思う。
 その思いのままに甘んじて受けた彼の気遣いもまた、甘く愛しい空気だった。

 杏寿郎に背負われた、蛍の手には番傘。
 雨でもないのに傘を差して背負い歩く姿は、道端の人の目を惹いたが、そんなもの一つも気にならない。


「それよりなんだか賑やかだね。瑠火さんのお墓参りをした時より、人の密度が濃い気がする」


 視線は気にならないが、その目の多さに蛍は意識を止めた。

 行き交う人々もさながら、皆何か浮足立っているように見える。
 せかせかと急ぐ足、荷物を運ぶ腕、飛び交う声。
 何かの準備をしている気配も感じられた。


「そういえば花街から戻ってから、蛍が昼間に出かけたことはなかったな。この賑やかさは、神幸祭が間近だからだ」

「しんこうさい」

「うむ」

「神幸祭って、あの? 前に話してくれた」

「如何にも」


 思わず体を起こす蛍から、滲み出る期待感が伝わったのか。可愛いの連呼に照れのような拗ねのような複雑な表情をしていたものを一変、杏寿郎は誇らしく笑った。


「蛍を神幸祭にぜひ連れて行きたいと思っていたんだ。だからこの季節の帰省をお館様に懇願した」

「…憶えていてくれたの?」

「勿論だ。忘れるはずない」


 鬼殺隊本部で、杏寿郎が何故さつまいもを口にする時にわっしょいと叫ぶのか。
 そんな何気ない疑問から知った、駒澤村の神幸祭。

 体験してみたいと告げた蛍と、約束したのだ。
 その季節には、ぜひ君を連れて行くと。

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