第24章 びゐどろの獣✔
「蛍…っ」
「だい、じょうぶ…ッ」
そこで大人しく引き下がりはしなかった。
即座に手を伸ばそうとした杏寿郎よりも早く、蛍は残りの抹茶も一気に飲み干したのだ。
ごくんと大きく嚥下して、嘔吐防止の為に両手で口を強く押さえる。
顔はどんどん青白く変わっていくが、それでも両手は離さなかった。
「(拒絶するな…っワインが飲めるなら抹茶だって飲めるはず! カキ氷だって日本酒だって吐かなかったんだからいけるはず!!)っふ…ふぅ、ふぅ…っ」
「ほ、蛍…無理はするな」
「っふー…ふー」
深く息を吸い込み、細く繋ぐ。
こういう時こそ呼吸法を活用すべきだと、何度も肺へと酸素を送り血液を巡らせた。
体を活発化させて、嘔吐する前に抹茶を吸収してしまえばいいのだ。
ブドウ酒が取り込めるなら、茶葉も取り込めないはずがない。
「っ…だい、じょうぶ…」
口を押える掌を尚上から掴むその手が、真っ白に変わるまで力を込め続けた。
ようやく口から離せたのは凡そ5分後。
全身に汗を掻いてぜぃぜぃと息を荒げるも、ようやく吐き気は催さなくなった。
(やった…飲めたっ)
口を開く。
嘔吐物が競り出す気配はない。
胃液が荒れるような気持ち悪さもない。
体調が良いとは言えないが、それでも抹茶を飲み込めたことに蛍は歓喜した。
まるですっきりと良い汗を掻いた後のような曇りなき顔で、静子へと笑いかける。
「美味しかったで、す」
「むぅ!」
かと思えば、ぷつりと糸が切れた人形のように真後ろに倒れ込んだのだ。
咄嗟に踏み出した杏寿郎が、伸ばした腕で力ない背を受け止める。
「だから無理はするなと」
「ぁ……ごめ…」
「起きなくていい。このまま寝ていなさい」
「うう、ん…大丈夫、です」
「蛍」
「静子さんと、話をしたい、から」
支えてくれている杏寿郎からどうにか身を退いて、一人で再び座り込む。
未だに顔色の悪い蛍のその様に、静子は鋭い瞳を大きく見開いていた。
「…そこまで抹茶が苦手な方は初めてですわ…何も無理して飲まなくても」
「私が、飲みたかったんです。おもてなし、して貰ったものです、から」