第24章 びゐどろの獣✔
「そう硬くならずとも、楽になさって構いませんわ」
「えっ」
「貴女方はお客様。おもてなしの為に茶を点(た)てたまでです。茶道などではなく、出された茶だけ楽しんで頂ければいいのです」
(そのお茶が大層なものに感じるのですが…!)
とは口にできず。
静々と別の茶碗に抹茶を点てる静子の姿に、蛍は膝の上に両手を当てたまま背をぴんと伸ばした。
「静子殿。彼女の食に関しては、口にできるものとできないものとがあります。抹茶はまだ」
「師範」
そもそも鬼故に、抹茶も受け付けない。
それを察して杏寿郎が口を挟むも、蛍自身がそれを遮った。
「大丈夫です。多分」
「しかし…」
「静子さん、抹茶って苦いんですよね…?」
「感じ方は人それぞれですわ。ですが、甘くはないでしょうね」
「なら、いけるかも、しれない」
ワインは口にできるのだ。
槇寿郎と酌み交わした祝い酒だって、嘔吐には至らなかった。
機会があるならば挑戦してみたい。
少しずつでも、人に近付けるのならば。
「お願いします」
深々と頭を下げる蛍に、しげしげと目を向けていた静子が再び柄杓を手に取った。
「──どうぞ」
「ありがとう、ございます」
杏寿郎同様、色鮮やかに点てられた抹茶。
ひとつの掌に乗せて、もうひとつの手でゆっくりと茶碗を回す。
どこまで回していいものやら。ちらりと隣を見れば、頷く杏寿郎が合図を出してくれた。
「おてまえ、頂戴いたします…」
こくりと唾を吞む。
傾けた茶碗に顔を寄せれば、鼻をくすぐる香り高い抹茶の匂いがした。
(…いい匂い)
嫌いではない。
寧ろ心が落ち着くような匂いだ。
欲を騒ぎ立てさせる血とは、真逆のように。
(これは緑の血、緑の血…)
それでも暗示は欠かせない。
心の内で何度も言い聞かせながら、抹茶を一口、こくりと喉に通した。
温かい。
血の温かさとは違う、体の芯を解していくような温かさ。
(緑の血。緑の血…っ)
こくん、と飲み込む。
食道を通り落ちていく、苦みの強い葉の味。
やがては胃袋へと到達し、ぐるりと行き渡るように粘膜に浸透を──
「…ぉえっぷ」
始める前に、胃液を沸き立たせた。