第6章 柱たちとお泊まり会✔
「呼びたいなら呼べ。話したいなら話せばいい」
「ぃ…いいの?」
「ああ」
「ほんとに?」
「望むのに疑うのか」
「…だって…くちかせ…」
言い難そうに伝えてくる単語に、なんのことかと眉を寄せる。
疑問として音に出す前に、義勇ははたと気付いた。
こんなに蛍が色々と言葉を向けてきたのは、炎柱邸からの初めての帰り道以来だ。
口枷をしろと言って以来、蛍の言葉は向けられなくなっていた。
「(…だからか)あれは野外だから口枷をしろと言ったんだ。万が一、一般人と出くわして飢餓症状が出る可能性も考慮してのことだ」
「そう…なの?」
頷けば、見てわかる程に蛍の小さな体が脱力した。
「そう、なの…」
「話したくないならそう言う。回りくどいことはしない」
「…え、と…じゃあ…あの…」
「?」
もそもそと小さな両手を胸の前で握り合わせては、同じくもそもそと口を動かす。
そんな蛍を大人しく待てば、ようやく小さな口がその名を紡いだ。
「とみ…さ…ぎ、ゆ」
「…冨岡義勇だ」
そこまではっきり聞こえていなかったかと、つい名乗り直してしまう。
余りにぎこちない呼び方に、まるで本当に幼子を前にしているような感覚に陥った。
真顔で言い直す義勇に、蛍の顔が羞恥で俯く。
(わかってる。わかってるんだけどっ)
言えない主張を胸の内だけに吐いて、躓いた己の舌を恨んだ。
冨岡さん、と呼ぼうとすれば蝶々の髪飾りの彼女を思い出して躊躇してしまった。
杏寿郎や天元はすんなりと呼べたのに、ここで躓いてしまうのはまだ義勇に警戒心でも持っている所為なのか。
歩み寄ろうとしたのは自分だ。
運良く拒絶もされなかった。
この機会を逃したら次はないかもしれない。
「っぎゆう、さん」
小さな拳を握って、つっかえながらも呼ぶ。
人一人の名を呼ぶことにこんなに勇気が要るとはと、自分でも驚いてしまう。
そんな蛍の絞り出した声に、じっと目を向けていた義勇はやがて腰を上げた。
「好きに呼べ」