第6章 柱たちとお泊まり会✔
辿々しくも問い掛けてくる言葉に、感情の見えない黒眼が瞬く。
やがて動かなかった義勇の手が、抱えていた蛍の体を目の前に下ろした。
「なんの意図があって、そんなことを訊く」
杏寿郎のように視線を合わせることはなく、上から見下ろし問い掛けてくる。
その圧に一瞬気圧されながらも、蛍は小さな拳を羽織の中で握った。
「っ…しりたい、から」
「?」
「はなしを…したい、から」
見上げていたはずの幼い瞳が、段々と自信なさげに下がっていく。
「わたしはわたしだって、いえるようになれって…いったから。じぶんを、あいてにみせるなら…あいてを、みることも、ひつようだと…おもうから」
「……」
「しってほしい、から。わたしも、しりたい」
貴方の、ことが。
一番伝えたいことは、言葉にする勇気がなかった。
それでもあの林道の中で、黒板に綴っただけで伝えられなかった、たった数文字の言葉。
それは確かに届いたはずだ。
俯く蛍の頭を、義勇の目がじっと見下ろす。
見えるのは小さな頭の頂点ばかりで顔は見えない。
どんな表情でそんな言葉を伝えてきたのか。
ただそれだけは気になって、目線と腰を下げた。
「お前は俯いてばかりだな」
片膝を床について尚、蛍の顔はまだ見えない。
「相手に何かを告げたいなら、目を見て話せ」
恐る恐る、という言葉が当てはまる程に、ゆっくりとした動作で小さな顔が上がる。
そこには緊張気味に張る表情(かお)があった。
きゅっと結ばれた、牙の覗く唇。
血の気の退いた、白い顔。
縦に瞳孔が割れた血色が仄かに混じる目は、様子を伺うように見てくる。
人のようでありながら、人とは違う。
鬼の体質を持ちながら、しかしその目は今まで見てきたどの鬼とも違う。
(変わっていない。こいつの眼は、人間だ)
具体的に何が人なのかと問われれば即答はできない。
それでもその眼は、義勇には人のそれと同じに見えた。
「好きにしろ」
切り替えるように息をつく。
見た目通りの幼子のように願わんとしたことを、わざわざ否定する気はない。