第24章 びゐどろの獣✔
「あの…これは、私が食べたいと思えたお菓子を選んできたものです。貰って、頂けませんか」
恐る恐る。言葉を変えながら再び菓子折りを差し出せば、静子は沈黙の末に音のない息をつく。
「鬼殺隊の方々を追い返す訳にはいきません。ですが話す内容もさしてある訳ではありません」
差し出された菓子折りを受け取ると、静かに座していた腰を上げた。
「お茶の時間でしたら、わたくしもお相手できましょう。──お上がり下さいな」
きゅ、と茶碗についた雫を茶巾で拭き取る。
光沢さえ感じさせる、温かみのある楽焼(らくやき)の茶碗。
お湯により温められたその中に、抹茶の粉末が少量入れられる。
次に茶釜から柄杓で湯を掬うと、音を立てないように静々と淹れていく。
濁った茶の湯は、茶筅(ちゃせん)によりしゃかしゃかと小気味良い音を立てて混ぜられていくと途端に姿を変えた。
均一に、色鮮やかに。きめ細やかな泡の立つ抹茶が、墨のように黒い楽焼茶碗に映える。
「どうぞ」
「では、お先に」
「ぁ…はい」
す、と茶碗の面を前にして畳の上に差し出す静子。
一礼をして、先に、と蛍に会釈したのは杏寿郎だった。
思わず敬語で返してしまったが、その場の空気に体は強張ったままだ。
「お点前頂戴します」
両手で持ち上げた茶碗を、掌でゆるりと回す。
面が口元につかないようにして、ゆっくりと抹茶を味わう杏寿郎の姿は、作法など知らない蛍から見ても由緒正しい姿に見えた。
「うむ。とても美味しいです」
「杏寿郎さんにお褒め頂けるなんて感無量ですわ」
自然な流れで声をかけ合う二人の姿に、蛍は一人身を縮ませた。
(というかお茶って…! 茶 道 だ っ た の )
知識としてはぼんやりと知っていても、詳しくは知らないしそんな場に立ち会ったこともない。
まるで別世界のようにも思える目の前の光景に、驚きのまま凝視し続けた。
作法など何も知らないのだ。
目の前の杏寿郎の行動を見て、その場で習う他ない。