第24章 びゐどろの獣✔
「ですから、そのような娘などいないと何度も伝えているでしょう」
「すみません。ただどうしても、今一度確認をしたく」
「その方ですの? 確認をしたいと仰ってきたのは」
「は…はい。すみません、しつこくしてしまって。師範は、悪くありません。私が直接訊きに行きたいと頼み込んだことを、呑んでくれたまでで」
伊武家の屋敷は、鬼殺隊を支える家柄ともあるからか。煉獄家程の広さとまではいかないものの十分に大きな屋敷だった。
杏寿郎と蛍。
二人が並び立っても十分に広さのある玄関で、屋敷の奥方に迎えられた。
出迎えた静子は、初めて蛍が出会った時と同じくかちりとした身形正しい着物姿だった。
髪の毛は後れ毛一本垂らさず、夜会巻きにした隙のないもの。
眉を顰めて見てくる姿からも、少なからず圧を感じてしまう。
「あの…よければ、こちら…つまらないものですが…」
「…つまらないもの?」
「はい。あの、美味しそうなお菓子を見かけたので」
「貴女…彩千代蛍さんと、仰いましたわね」
「っはい」
名をしっかり覚えてくれていたことに、菓子折りを差し出した格好で蛍の顔も上がる。
自分を憶えてくれているなら、その場にいた八重美の記憶も微かにでもあるかもしれない。
「貴女は他所の家へ手土産を差し出す時、つまらないものを差し上げますの?」
「…え」
だが向けられていたのは、冷えた視線だった。
「自分がつまらないと思うものを、差し出すのかと訊いているのです」
「ぁ…っいえ、そんなつもりは…っ」
「でしたらそのような物言いはおやめなさい。例え習わしであっても、他人を不快にさせるような言葉遣いは使うものではありません」
「は、はい」
ぴしゃりと言い切られ、ぴしりと蛍の背が伸びる。
初対面の時から身内であっても厳しそうな感じはしていたが、物の見事に他人である蛍にもその目は向けられた。
(…あれ…? でも、意外)
初対面の時は、鬼殺隊とは。柱とは。と、その肩書きや風習に厳しい目を向けていた静子。
反して先程の忠告は、その姿勢とは真逆のものだ。