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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔



「自分が欲しいものを買うって、ほとんどしたことなかったからなぁ…上手く使える、かな」


 自分の希望の為だけに何かを買った記憶はとんとない。
 鬼を滅することだけを考えて協力している訳ではない為、そこで発生した金銭を易々と使う気もなかった。

 がしかし、金は天下の回りもの。
 巡り巡って自分の下へもやってきたと思えば、受け止めることができた。


「……」

「…杏寿郎?」


 しみじみと呟く蛍の頭に、不意に大きな掌が乗る。
 ぽふぽふと無言で頭を撫でてくる杏寿郎に、蛍は頸を傾げた。
 何かと目で問うも「いや」と一言で返される。
 となれば答えは聞けない。

 そこまで深追いする気もなく、蛍は思い出したようにくすりと笑った。


「昨日とは逆だね」

「む」


 思い出したのは、微睡みの午後。
 あの焔色のふわふわな毛並みの感触が、まだ掌に残っているようだ。


「昨日は蛍に甘えっ放しだったからな…」


 杏寿郎も同じものを思い出しているのか。照れ臭そうに呟くも、どこかそわそわと空気が柔く揺れている。

 くすりと、また笑ってしまった。


「やっぱり槇寿郎さんかなぁ」

「だと思う!」


 尋ねてみれば、間髪入れずに高々と返される。
 ほわほわと確実に嬉しそうな空気を纏う杏寿郎に、蛍は頬を緩めた。

 昨日の虫干し最中のこと。
 すっかり日も暮れた頃に最初に目を覚ましたのは、杏寿郎だった。
 膝を借り過ぎたと慌てて飛び起きるその衝動に、つられて起きた蛍が感電したかのように溜まった痺れに悶絶する。
 その声につられて起きた千寿郎が何事かと慌てふためく。

 寝起きは騒々しいものだったが、鬼であるが故に痛みもすぐ退いた。
 それよりも三人の目を釘付けにしたのは、掛け布団のようにそれぞれの体に羽織らせられていた着物達だ。

 三人の誰にも、着物を手に取った記憶はない。
 となれば思い付く相手は一人しかいない。

 喜び勇んで礼と共に槇寿郎に訊きに行った杏寿郎だったが、虫干しを途中放棄してしまったことを小言のように咎められただけで、明確な答えは聞けなかった。

 それでも答えはほぼ出ているようなものだ。
 黙って着物をかけてくれたのは、槇寿郎なのだと。

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