第24章 びゐどろの獣✔
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「蛍、日差しはきつくないか?」
「大丈夫。竹笠に傘まで差してるから準備万端。ありがとう」
「俺にはこれくらいしかできないからな」
見慣れた紫外線防止の袴に竹笠姿の蛍は、明るい村道を歩いていた。
その隣で番傘を差す杏寿郎により足元には丸い影ができ、太陽光から身を守っている。
両手には菓子の入った包。
手ぶらで赴くよりは、と伊武家訪問の為に蛍自身が提案したものだ。
「でも吃驚した。私にお給料が発生してたなんて」
「蛍は俺の継子だ。鬼殺の助力をしているというのに、ただ働きは可笑しな話だろう」
「でも私、別にお金が欲しくて…」
「うむ。一度そう断られたからな。だから君の給与は、全て俺が預かっている。使いたい時はいつでも使えるようにしているから、遠慮なく言ってくれ」
炎柱の継子として正式に任命されたばかりの頃。「これから鬼殺隊の一員となる蛍には、然るべき報酬も与えなければという話がお館様から出ている」と、杏寿郎伝に聞かされた。
しかしその時は丁重にお断りしたのだ。
人間の時は常に欲していたものだったが、鬼となってからは必要としなくなった。
金銭を所持したところで使う道もない。
寝屋があり、少量の血を貰えるだけ十分。だから自分には不要なものだと。
「お館様のご意向だ」
それでも話は水面下で進んでいたらしい。
尚も鬼殺隊の頂点である産屋敷耀哉の名を出されれば、何も言えなくなってしまう。
ふらりと立ち寄った甘味屋で、自分が手土産を買いたいのだと言った蛍に、杏寿郎が懐から出したのは自分の金ではなかった。
今までの働きに見合った給料は発生していたらしく、蛍の知らぬ間に貯蓄は粛々と増えていたのだ。
「だから蛍自身欲しいと思ったものがあれば、迷う必要はない。君の金で買えるんだ。君が望むものを買うといい」
「……そっか」
穏やかに笑う杏寿郎の顔を見上げていた蛍が、俯く。
菓子折りの包へと視線を落として、大事そうに抱え直した。