第24章 びゐどろの獣✔
「じゃあはい、頭は伏せて。子守歌なんだから」
「うむっ」
額に手を添えれば、そそくさと膝枕に頭が沈む。
じっと期待を込めた目で見上げてくるものだから、咳払いと共に瞼の上に掌を重ねた。
「こっち見ちゃ駄目」
「む…」
抗う気はないのか。大人しく身を委ねる杏寿郎を見下ろして、深呼吸をひとつ。
思い浮かぶは、いつも柔らかで優しい瞳を向けてくれていた姉の姿。
「あの唄を歌って」と、蛍もよく幼い頃はせがんでいた。
重なるのは、自身の姿だ。
(…姉さんも、こんな気持ちだったのかな)
愛らしい。
いじらしい。
この手で、腕で、包み込んで、世の悪いもの全てから守っていたい。
「…唄を、忘れた…かなりやは──」
恋人だとか、家族だとか。
そんな関係など必要なしに、ただただ愛おしさだけが募った。
すべては、ただ彼の為で在りたい。