第6章 柱たちとお泊まり会✔
あんなに難しいと思っていた会話ができている。
口を閉ざせとは言われないし、口枷をしろとも言われない。
その意味ありげな視線を感じたのか、目線を前に向けたまま「なんだ」と問われる。
それは拒絶ではない。
耳を傾けている姿勢だ。
「…なんだと訊いている」
「えっ、あ」
息を呑んで沈黙してしまえば、向かなかった目線が今度は向いた。
僅かに眉を寄せて問い掛けてくる義勇に、はっとした蛍の口が慌てる。
「わ、わたし…っ」
【話がしたい】
そう願った。
あの時は言えなかった。
それを伝えても許されるならば。
杏寿郎の時のように、思いを交わすことができるならば。
「わたし、は」
「?」
「いろちよ、ほたるっ」
ぴたりと義勇の足が止まる。
今度こそはっきりと凝視する目は、ありありと蛍に語っていた。
「だからなんだ」と。
「…ぁ…(しまったー! つい杏寿郎の真似を!!)」
じっと凝視してくる目に射抜かれ、蛍の顔が焦りに染まる。
杏寿郎に初めて興味を抱いた、あの秋夜と同じ。
あの時もまた、きちんと名乗ってくれた杏寿郎の自己紹介から始まった。
その名残か。
つい自分の名を口走ってしまった蛍に、義勇は訝しげな表情を見せるだけだ。
しかし今更間違えたなどとは言えず、蛍は勢いのままに先を促した。
「な…なまえっは、なんですか…!」
「…? 何言ってる」
「っ(ですよね!)」
義勇の反応は尤もだろう。
だからと言って今更退けはしない。
思い返せば、義勇の名を知ったのはしのぶの口からだった。
目の前の彼から直接その名を聞いたことはない。
「なまえ…っおし、えて……ください…」
段々と尻窄みになる蛍をじぃっと訝しく見下ろしたまま。
沈黙が長く感じる前に、義勇は口を開いた。
「冨岡義勇だ」
嬉々としても嫌々としても呆れてもいない。
淡々とでも告げられた名に、蛍はほっと胸を撫で下ろした。
「わ、わたしは、いろちよほたる」
「知っている」
「その…なまえ…を、よんでも、いい…?」