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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔



 不器用なのだと思う。
 父も、息子も。


(杏寿郎も槇寿郎さんも、私に見せてくれるその顔を、互いに見せ合えたらいいのに…)


 父を思うからこそ、太陽のように煉獄家を常に明るく照らそうとする杏寿郎も。
 そんな息子をよく知っているからこそ、抱え込んだ暗闇を曝け出せない槇寿郎も。

 本当のところの本音を、伝え合えていない。

 簡単なようで難しいそのすれ違いは、一筋縄ではいかない。
 それは蛍にもわかっていた。


(──あ。)


 子供のようにくっ付いていた体が、もぞもぞと微かに揺れ動く。
 顔色を伺うようにちらりと見上げてくる杏寿郎には、いつもの闊達さも快活さもない。

 だがその顔に、蛍は不思議と安心した。
 取り繕いを見せない瞳は、ゆらゆらとほのかに揺れる小さな蝋燭のようだ。


「…ねぇ、杏寿郎。一つ、訊いてもいいかな」


 今ならすんなりと訊けそうな気がした。
 緩やかな口調はそのままに、ふと問いかける。


「さっき不意に思ったんだけど。杏寿郎は、なんで炎柱の書に触れようとしなかったの? あれ、代々煉獄家が受け継いできた柱の書なんでしょ?」


 槇寿郎には、触れてくれるなと言われた。
 炎柱ノ書について訊くことはできないが、そこに触れようとしなかった杏寿郎のことは知りたいと思った。

 父の制止を受ける前に、息子はそれを手に取らなかったのだ。


「…そうだな。大切に我が家で保管されてきた書物だ」


 だったら尚更、何故と思う。

 蛍にとって杏寿郎が導き手だったように、杏寿郎の導き手は父である槇寿郎だった。
 その槇寿郎が指導を放棄したものだから、たった一人で炎柱へと昇り詰めたのだ。
 その手助けをしたのは三冊の呼吸の指南書だけで、炎柱ノ書には一切手をつけなかったという。


「父上が、よく読んでいたんだ。柱を辞めてからも、あの書だけは肌身離さず持っていることもあった」

「じゃあ、柱となる為の大切なことが記されていたんじゃ…」

「だから読まなかったんだ」

「え?」

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