第24章 びゐどろの獣✔
瑠火の話は、杏寿郎からよく聞いていた。
そこに影鬼で視た過去の記憶を重ねれば、なんとなく想像はついた。
炎柱の妻として立派に務め上げていた瑠火は、優しさも厳しさも持ち合わせていたのだろう。
抱いた赤子の千寿郎をあやす様からも、それは感じ取れていた。
蛍を育ててくれた姉のように、言葉以上の触れ合いで語ることは少なかったかもしれない。
「杏寿郎は、されるよりもする方が慣れてそうだし」
「頼られることは嬉しいぞ」
「嬉しいの?」
「ああ」
「じゃあ私も、その嬉しさが知りたいなぁ」
「知りたいか?」
「うん」
ちらりと横目に視線を上げてくる。
そんな杏寿郎の瞳を見返して、蛍はするりと金色(こんじき)の髪を指先で梳いた。
「空は快晴。お天道様も世界を見てる。此処に悪いものは来ないから、大丈夫」
髪を撫でつけ、声を和らげ。あやすようにとんとんと、鼓動に合わせて肩に触れる。
「大丈夫だよ」
悪いものと言われて真っ先に思い浮かぶのは鬼だ。
その鬼である蛍から伝わる体温が、声が、自然と腕組みを緩め肩の力を抜かせた。
「…蛍」
「なぁに?」
「…君の方を向いても、構わないだろうか…?」
「こっち?」
「駄目か」
「ううん。どうぞ」
優しく促す声に、ほっとする。
寝返りを打って蛍の方へと向き直れば、視界は狭く暗くなった。
その閉塞感が、不思議と心地良かった。
ふわりと鼻孔をくすぐるのは、甘く優しい香りだ。
(…蛍の匂いがする)
先程嗅がせてもらったものと同じものだ。
なのに先程よりも、不思議な安心感があった。
髪を撫でる指先が、背をあやす掌が、心地良い。
「…何故、膝枕なんだ?」
「ん?」
「唐突だと、思ってな」
「そうかなぁ。ただ、触れていたいなって思ったから。杏寿郎に、こうして」