第24章 びゐどろの獣✔
「それは、俗に言う…膝枕、では」
「うん。匂いを吸われ続けるのもやっぱりちょっと恥ずかしいというか…妥協案として」
「頂こう!」
「うわ声っ」
蛍にとっては妥協でも、杏寿郎にはそうではなかったようだ。
食い気味に、一つ返事で大きく頷く。
「千くんが起きるから…っ」
「むっ…すまん」
声を静めながらも、杏寿郎の目はじぃっと蛍の膝に向けられたまま、結んだ髪先もそわそわと揺れている。
やはり髪先を仔犬の尾のようにして感情を表していた千寿郎と同じだと、蛍は笑いを殺した。
「どうぞ」
それでも漏れてしまう感情で口角を緩ませると、両手を誘うように己の膝の前に翳した。
「では、失礼する」
形式張った物言いで一礼する杏寿郎に、またくすりと笑ってしまう。
畳に片手をつくと、頭を膝に預けながらゆっくりと杏寿郎は横になった。
「む…髪が邪魔だな」
ぴょこりと頭の後ろで揺れる結んだ髪房は、仰向けに寝るには邪魔になる。
ああでもない、こうでもないと、頭がしっくりくる位置をそわそわと探した。
「位置、決まった?」
「うむ。これでいこうと思う」
(いこうと思うって)
ようやく安定したのか、膝の上で揺れていた頭が大人しくなる。
室内へと視線を向けた体制で、横顔を膝に預ける。
両手は腕組みをしたまま、はきはきと満足そうに告げる杏寿郎に、蛍は眉尻を下げて笑った。
ただの膝枕だというのに、なんとも不慣れで大きな子供のようだ。
「杏寿郎、膝枕の経験ってないの?」
「いや。最後の記憶は、母上の膝を借りたことだな。俺も随分幼かったから、遥か昔のことだが」
「ふぅん。…自分からはしなさそうだよね。瑠火さんに誘われたりした?」
「何故わかる?」
「わかるよ。杏寿郎のこと、見てるから」
弾力がありつつも、ふわりと柔く跳ねる。
毛並みのような焔色の髪を、優しく撫でる。