第24章 びゐどろの獣✔
「父上の言う通りだ。早く解決せねばと逸る余りに、蛍への配慮が欠けていた…すまない」
「ううん。もし本当に私が血鬼術にかかっているなら、解くことが第一だろうし。まず命がなきゃ」
「だとしても、だ」
救うべきは命が第一優先。その使命は杏寿郎の中にもある。
それは鬼殺隊の柱として立つ時の志だ。
蛍を前にした、煉獄杏寿郎という一人の男である時は違う。
「俺が何より守りたいのは、君の心だというのに。それを疎かにしていては、父上の言う通り浅知恵でしかない。…原因を探そう。誰が血鬼術にかかっていようとも、それが本当に幻術ならばかけた術者がいるはずだ。その者さえ見つけてしまえば、かけられた者も救うことができる」
「うん」
下から掬うように両手を握りしめる。
杏寿郎のその手を蛍も応えるように握り返して、深く頷いた。
「じゃあ、ね。一つお願いがあるの」
「なんだ? なんでも言ってくれ」
「私も、伊武静子さんに会いたい。一度会っているから、私のことを知っているはず。直接会って、八重美さんのことをお話したいの」
「わかった。ならば早速静子殿に便りを出そう。俺も共に同行していいな?」
「勿論」
直接会えば、何か手掛かりは見つかるかもしれない。
八重美が幻覚であろうが、本物であろうが、その一歩となる手掛かりが。
「…蛍」
「ん?」
「どう足掻いても八重美さんという女性を思い出せはしないが、はっきりしていることはある」
「なぁに?」
「俺は今まで、特定の女性に髪飾りなど贈ったことはない」
「…そう、なの?」
握られていた両手の束縛が、少しだけ強くなる。
身を委ねるように握り返したまま、蛍は目を丸くした。
「本当だ」
逸らすことなく見つめてくる炎の双眸には、偽りなどない。
そう信じられるからこそ、蛍は内心困惑した。
では八重美という女性は。
彼女が身に付けていた髪飾りは。
全て幻だったのか。
「君を振り回したい訳じゃないんだ。…ただ、その心を射止めたくて何か贈り物をしたいと思った女性は、蛍が初めてなんだ」
困惑が顔に出ていたのか。
一歩歩み寄った杏寿郎が、俯き額を重ねてくる。
「信じて欲しい」