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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第24章 びゐどろの獣✔



「…その日なら俺にも覚えがある」

「本当ですか!」


 ぼそりと告げる槇寿郎に、ぱぁっと杏寿郎の顔が花咲くように笑う。
 記憶していたことが嬉しかったのだろう。手に取るようにわかる息子の感情に、鬱陶しそうに槇寿郎は顔を背けた。


「だがその娘は知らん。人捜しなら余所を当たれ」

「それでしたら、もう手は打ちました。方々村の人々に訊いてみたものの、一つとして情報に出ず終い。誰もそんな女性は知らないと」


 花街から帰り着いてすぐに、杏寿郎は行動を起こした。
 昨日の外出も、私情も要したが大半はその調査だ。
 しかし駒沢村の誰に訊いて回っても、伊武八重美という女性の正体はわからないまま。母、静子でさえも何も知らなかったのだ。

 念の為に花街で別れた天元にも鎹鴉にて確認を取ったが、彼の周りでは異質な記憶障害は起こっていなかった。
 つまりは駒澤村の関係者だけが不可解な事態に合っていることになる。


「風の噂で、この状況に似たような話を聞きました。神隠し、というもので」

「はっ神隠し? 馬鹿馬鹿しい」

「ですが現状、神隠しに類似する点は幾つもあります。これは俺の憶測ですが…血鬼術の類ではないかと」


 呆れていた槇寿郎の顔が、ぴくりと反応を示す。


「人の記憶に触れられる鬼を、俺は知っています。ならば人の記憶を操作できる鬼も、いるのではないかと」

「ならばなんだ。お前も、俺も、この村の者全員が、知らぬ間に血鬼術にかかっていると?」

「もしくは──…蛍の記憶を、操作しているのではないかと」

「ぇ」


 不意に自分へと投げかけられた疑問に、蛍は目を丸くした。

 記憶ははっきりとあるのだ。
 伊武八重美という女性の姿も、杏寿郎を取り巻くが故に彼女に抱いた不安も憶えている。


「村人全員の記憶を操作するより、彼女一人の記憶を操作する方が現実的です」


 その記憶が偽物ではないかと、そう言われた。

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