第24章 びゐどろの獣✔
本棚に並べられていた全ての書物を出し切ったからこそ気付けたそれは、棚の奥に小さな扉を隠していた。
僅かに指を引っ掛けられる凹みがあり、襖を開けるように横へとずらせば一冊の古びた本が出てきたのだ。
意図的に隠されている本を見つけた時は、一人挙動不審にもなってしまったものだ。
仕舞い方もそうだが、何より本の表紙を見て。
(二十一代目、炎柱ノ書…)
部屋へと踏み込むと、盆を部屋の隅に置いて棚へと歩み寄る。
仕掛け扉のような小さな枠の中に置かれた色褪せた本には、達筆な字でそれとだけ書かれていた。
「これって、あの炎柱の書だよね…」
貴重な品物だとわかっているから、触れるのも恐る恐るとなってしまう。
杏寿郎の過去の話の中に、確かにその名が出てきていた記憶はあった。
〝歴代炎柱の書〟
そう杏寿郎が呼んでいた書物は、代々伝わる炎の呼吸の全てを記したものだ。
柱になる為に杏寿郎が読み込んだと言っていた、炎の呼吸の指南書とは違う。
代々炎柱を受け継いできた煉獄家にこそ伝わる伝統書物なのだ。
(み、見てもいいのかな…怒られるかな…)
煉獄家の人間ではない、そもそも人間ですらない自分が、そんな大切なものを勝手に見てもいいものか。思わず本を手にしたまま、きょろりと辺りを伺ってしまう。
周りに人影はない。
このまま手にした炎柱ノ書を杏寿郎へと持参する手もあったが、運び出していいものかも迷う。
(…虫干しの為だと思えば…一瞬、だけ)
再び視線を戻すと、恐る恐ると蛍は表紙を開いた。
そもそも虫干しは本を開いて行わないといけない。その為だと、言い聞かせて。
「……ぇ…?」
一枚、表紙を捲る。
黄ばんだ何も書かれていない頁を更に捲り、蛍は息を呑んだ。
その先は読めなかったのだ。
本の劣化ではない。意図的に誰かの手により破り捨てられていた。
それも一頁や二頁の話ではなく、ほとんどの文章がびりびりに破れ読めなくなっている。