第24章 びゐどろの獣✔
「でも兄上が沢山お仕事をなさっているのは事実ですよ。昨日も長いこと外出なさっていたでしょう」
「ん?…ああ。あれは…まぁ、私情も込みだからな」
「私情? 姉上が言っていたことの調査では…」
「うむ。無論、それもある。だが俺は鬼殺隊の柱だ。任務で遠征も日常であるし、こんなことは"沢山"のうちには入らない。それより一番の功労者は千寿郎だろう」
「え?」
「朝昼晩、家事も休みなくこなしている」
やんわりと話題を変えられはしたが、告げる兄の顔に"嘘"はない。
「いつも世話をかけるな」と続ける杏寿郎に、そんなことはないと千寿郎もまたやんわりと頸を横に振った。
「大したことはないですし、姉上も手伝ってくれていますよ」
「無論、蛍にも感謝している。だとしても、だ。帰省していない間、いつも家のことを任せっきりだしな。偶には俺に」
「台所は姉上にお任せします」
「…むぅ」
にこりと綺麗な笑顔で返す。
幼いながらも、まるで瑠火に諭されているような空気に似ていると杏寿郎は口を噤んだ。
やはりどうあっても料理は許して貰えないらしい。
「危ない危ない…」
盆に乗せた急須と湯呑と茶請け。
それらを落とさないように廊下を静かに進みながら、蛍はふぅと一息ついた。
杏寿郎には少し罪悪感も湧いたが、どうせなら美味しい茶を二人には味わって欲しい。
自分には味わえなくなったものだからか、鬼となって余計に他人の食事顔が目に止まるようになった。
米粒一つ残さずよく食べる二人には、いつでも美味しいと笑っていて欲しいのだ。
「──ぁ」
自然と速くなる足を止めたのは、その時だった。
襖の開いた一室で目を止めたのは、先程まで虫干しをと取り組んでいた部屋だ。
隙間なく並べ広げられた本の数々。
壁際には、どしりと立派な本棚が隙間なく並んでいる。
蛍の足を止めたのは、その本棚の端。
木目の鮮やかな棚の奥に、小さな仕掛けはあった。
(そうだ、忘れてた。杏寿郎に訊こうと思ってたのに)