第24章 びゐどろの獣✔
「兄上、もう畳干しを終えたんですか?」
「ああ。二人共そろそろ終える頃だろうし、茶でも淹れて来ようかと思っていたところだ」
「えっ兄上が?」
「いいよいいよ私が淹れるよ。杏寿郎はゆっくりしてて」
「そう、ですね。兄上が一番力仕事をしていたので」
「そうでもないぞ? 書物も衣類も、嵩張れば十分力仕事になるだろう。それに偶には俺が二人に茶を…」
「あっそうだ! この間の遠出で買ったお茶菓子、まだあったよね千くん!」
「は、はい! 台所の右棚のいつもの茶請け入れの中に…っ」
「じゃあそれも持ってくるね! お茶もついでに淹れてくるから! 私が!!」
「はいっすみませんお任せします!」
「気にしないで!」
「…茶くらい、俺も淹れられるぞ…」
慌ただしく笑顔を交わして、颯爽と去っていく。そんな蛍を見送りつつ、ぼそりと杏寿郎は不平を零した。
料理の腕がからっきしなのは、杏寿郎自身も容認の事実である。
「でも姉上も力仕事を沢山していたのに…つい、頼んでしまいました…」
「ん?…ああ、気にするな。あれは無理している顔ではないし、好きでやっているんだ。いつまでも客として扱われるよりは、余程居心地が良いと蛍も言っていたぞ」
「本当ですか?」
「兄は嘘をつかない」
朗らかに笑う杏寿郎のその一言だけで、すとんと腑に落ちてしまう。
もとより蛍が常人より遥かに体力も筋力もあることも知っている。
ほっと胸を撫で下ろすと、ようやく千寿郎も笑顔を見せた。