第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
(また此処へ来る為には、目先のことも解決しなきゃね。与助のこともそうだし…列車の任務も)
改めて決意を込める。
未来を見据えるなら、今を生き抜かなければ。
それは天元だけでなく、蛍と杏寿郎も変わらない。
「案ずるな」
「…え?」
もう人影もわからない。
小さくなる花街を窓際から蛍が見送っていれば、杏寿郎に呼びかけられた。
「どんな形であろうが、生き抜けば勝ち。それが宇髄の考え方だ。共に歩もうと決めた伴侶を三人も抱えているからな。おいそれと己の命を投げ捨てるようなことはしない」
先程の天元とのやり取りを思い出しているのか。杏寿郎の視線もまた、離れゆく花街を追っていた。
「それでも我らは明日をも知れぬ鬼殺隊。そうして形として、奥方以外の誰かに何かを残す姿は初めて見た。…それだけ宇髄の決意も強いのだろう。だから案ずるな。彼は必ず帰ってくる」
「…うん」
そっと、後頭部を飾る簪に再び触れる。
つるりと丸い玉とは別に、かちりと硬い宝石の感触。
義勇と天元。
意味は異なるが、二人の思いの欠片を形にしているようで、蛍は優しく指先で撫で付けた。
「まぁなんだ! 他の男から貰った飾りを大事そうに身に付けられるのも妬けるがな!」
「う。」
急にこちらを向いたかと思えば、杏寿郎が笑顔で告げてくる。
仲睦まじい蛍と千寿郎に向けた、先程の剣幕の笑顔とはまた違う。
その気持ちがよく理解できたからこそ、蛍は手持ち無沙汰にそわそわと両手を彷徨わせた。
「ええと…っ杏寿郎が嫌なら、あんまり身に付けないように、する。懐に持ってる分には、いい、かな?」
「ははっそう焦らなくてもいい。半分本音だが、冨岡が簪を渡した経緯も知っているし宇髄の思いも理解できている。蛍自身が託されたものだ、君の好きにしていい」
「…いいの?」
「うむ!」
朗らかに笑う杏寿郎に他意はない。
ほっと胸を撫で下ろしつつ、ふと蛍は思い出すように顔を上げた。
(そういえば…杏寿郎も髪飾り、あげてた、よね)
思い出したのは、花街へ来る前。駒澤村で出会った八重美という女性のことだった。