第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
日除け対策の黒手袋をした掌で転がる、一粒の宝石。
太陽光の反射によりきらきらと輝く朝焼けのような光は、天元の白銀の髪を思い起こさせた。
「…綺麗…」
童磨の作り上げた虹色のリボンを見た時と同じく、つい感情が零れ落ちる。
しかしあの時は心の中だけで吐露しなかったものを、天元の前では素直に口にすることができた。
「だろ? その輝きも、上手く光を集めて反射できるように計算して切り取られたもんなんだぜ」
「凄いね…雛鶴さん達の想いが、形として沢山詰まってるみたい」
こんな小さな宝石一つ、作り上げることもその道の達人でなければ困難だろうに。
どういう工程で作り出したものか蛍にはわからないことだらけだったが、並々ならぬ想いが詰まっていることは理解できた。
釘付けになったように宝石を見つめていた蛍が、徐にそわそわとし出す。
宝石をあちこち確認するように色んな角度で観察しながら、また己の服をまさぐる。
「なんだ?」
「いや…あの。どうせなら、身に付けていたいかなって…小さいから、持ってたら失くしてしまいそうだし。天元みたいに飾り付けられたら…ここに紐を通すの?」
宝石の中心に空いている小さな穴を指差す蛍に、きょとんと天元の目が瞬く。
と徐に口角を緩めると、ひょいと蛍の手から宝石を摘まみ上げた。
「蛍。後ろ向け」
「え。なんで」
「いいから向けって」
渋々と背を向ける蛍に「動くなよ」と一声かけて、天元の手が伸びる。
一つにまとめあげた髪を支える小さな玉簪に、彩る指先がそう、と触れた。
「──よし、できた。これでいいだろ」
「?」
「この簪よく付けてんだろ? さっきの飾りもそれに足しておいた」
いまいちはっきりとは確認できないが、列車の窓ガラスに映る自身の後頭部を見れば、きらりと太陽光の反射で何かが光る。
義勇のくれた玉簪は、光り物ではない。
天元の手により珊瑚色の玉に寄り添うように、小さな宝石は細い糸で固く結び付けられていた。
「派手に華やかになっていいじゃねぇか」
「…うん」
満足そうに笑う天元に、蛍もいつものような否定はしなかった。
そっと簪に手を添えると、頬を柔く緩ませる。