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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔



 ああ言えばこう言う、二人の勢いは増す。
 騒ぎが大きくなる前にと、先に掌を蛍の前に突き出し止めたのは天元だった。


「ぜぇ…っ待て。一旦休憩だ」

「はぁ…っ私は、休憩要らないけど…すぐ回復するし」

「鬼は狡ィな」

「男女の時点で差があるんだから、おあいこでしょ」


「休憩…」

「言い合いも会話も気兼ねなく行える二人だからな。いつもこんな感じだぞ」

「そう、なんですか…」


 呆気に取られるままにぱちぱちと目を瞬く千寿郎の前で、ふぅと息を整えた天元が姿勢を正す。


「そういうことを言いたいんじゃねぇんだよ」

「手を出してきたのはそっちだけど」

「そりゃお前が…いいから聞け。わかっただろ、こいつの強運」

「? それが何」


 再び額当てを指し示す天元に、蛍は頸を傾げる。
 それに答えることなく、額当ての左右で揺れる宝石が連なる飾りに触れる大きな手。
 萌黄(もえぎ)と深紅(しんく)のネイルで交互に塗り彩られた指先は、何度か宝石をシャラシャラと転がす。

 と、そのままシャランと掌に一つ落とした。


「えっ(それ外れるのっ?)」

「やる」

「えっ!?」


 装飾を外せたことにも驚いたというのに、そのままあっさりと手元に放られて慌てて蛍は両手で受け止めた。
 掌で煌めき立つのは、見間違えようのない小さな白銀の宝石だ。


「も、貰えないよ…っ雛鶴さん達が天元の為に作ったものなのに」

「誰が一生やるっつった。貸すんだよ」

「貸すって」

「俺の大事なもんを一つお前に預ける。いいか、やらねぇからな。必ず返してもらいに行くから、お前はさっさと煉獄との任務終わらせて本部で待ってろ」


 指差す手が、蛍の竹笠に触れる。
 竹笠の上からでもわかる、昨夜も一度頭部に感じた。手荒だが、冷たさのない掌だ。


「大体、上弦の鬼に狙われたのは蛍の方だろ。"それ"が必要なのは俺よりお前かもしんねぇしな」

「……」


 童磨との間にあったことは、誰にも話していない。
 それでも顔を見ただけで感情を読み取れる天元には、何かしら感じさせていたのかもしれない。

 返してもらいに行くと言うのは、天元なりの無事を誓うものだ。
 そう感じたからこそ、蛍は抗う口を閉じた。

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