第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
稼ぎだけではない。
寒空に浮かぶ月のような白銀の髪に、切れ長の瞳に鼻筋の通った顔立ちは、女なら一度は足を止めてしまう美しさだ。
比べ、身体は筋骨隆々。
更には2m近い上背を持つ。
男なら一度は見惚れてしまうような、雄み溢れる鍛え抜かれた体だ。
(杏寿郎とは別の意味で非の打ち所がないというか…義勇さんとは別の種類の美形というか…世の中はやっぱり不公平というか…三人も美人の奥さんを娶れるところなんてどう考えても可笑しいというか…天は二物を与えずなんて言葉生み出した人を疑いたいというかだってこんなの狡いでしょどう見てもなんでこう)
「うるっせぇなァ」
「…はい?」
「煩ぇっつってんだよ」
「まだ何も言ってません」
「言ってんだよ顔がよ。思っくそ文句ありますって顔でこっち睨んでんじゃねぇか。てか"まだ"ってなんだ"まだ"って」
悶々と憤りを感じていれば、つい目線に力が入ってしまっていたようだ。
杏寿郎から蛍へと切り替えた天元が、薄い眉を顰める。
「そんなに煉獄のこと言われんのが腹正しいのかよ?」
「いえそこは別に」
「いいのかオイ言われてんぞ煉獄」
「はっはっは! 俺と宇髄との仲だからな! 喧嘩する程なんとやら、だ!」
気分を害した様子もなく豪快に笑う杏寿郎に、すっかり空気は丸くなる。
蛍の憤りも緩和されてしまうと、それが天元だと思えば渋々とも納得できた。
自分で自分を色男だと言い切れる程の自信も、三人の女性を一度に愛せてしまう度量の深さも、納得してしまうだけの男だ。
同じものを持っている訳でもない自分が、張り合っても仕方がない。
(まぁ、目は惹くよね。杏寿郎と同じくらい)
型は異なるが、人の目を惹き付けることに関しては杏寿郎と同じだ。
それは時として、良いものも悪いものも引き寄せる。
「天元は、もう少し此処に残るんだよね」
「なんだ急に。お前の捜してる男の情報を集める為にも、数日は滞在するって言っただろ」
「…上弦の鬼が、また戻ってくるかもしれないのに?」
「そりゃあ願ったり叶ったりだ。俺の本命は上物の鬼だからな」
元々吉原遊廓で鬼の探索をしていたのも、上の位の鬼がいると踏んでのことだ。
そう笑う天元に、蛍は反して表情を渋めた。