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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔



「そうだな…千寿郎の言う通りだ。また共に来よう。この地に」

「でも、松風さんが」

「お松殿は、此処に住まう柚霧を思い背を押したんだ。ならば今度は、自分の為ではなく俺や千寿郎の為に共にこの地を踏んではくれないか?」


 千寿郎の隣で微笑む杏寿郎の言葉に、否定が止まる。

 できるなら、また会いたいと思った。
 自分で自分をまともに見ていなかったあの頃を、心に刻んでくれていた人達に。


「…怒られない、かな…?」

「その時は俺が一緒に頭を下げてお松殿に謝ろう! 心配することはない!」


 腕組みをしたまま胸を張り笑う杏寿郎に、つられるようにくすりと蛍の口元に笑みが浮かぶ。


「それ、きっとまた人を苛立たせるって言われるよ」

「…む。」

「えっ兄上、そんなこと言われたんですかっ?」

「煉獄の素直さを邪険にするたぁ、お松も良い度胸持ってんじゃねぇか。気に入った」

「千寿郎、それは違う。お松殿は世間の意見を一つ例として述べたまでで…宇髄! それはどういう意味だろうか!?」

「どうって、そのまんまよ。人たらしなお前も、万人受けする訳じゃなかったってことだ。良い教訓になるじゃねぇか」

「人たらし…? それはなんとも言い草が酷くはないかっ?」

「どう見たって人たらしだろ。なぁ煉獄。そういう無自覚なところが苛立たせるって、お松はそう言ってんのよ?」

「! そう、なのか…」


 飄々と告げる天元に、雷に打たれたかのような衝撃で杏寿郎は笑顔を固まらせた。

 弾むように行き交う言葉のキャッチボールは、二人の間だと尚も弾む。
 その心地良さに耳を傾けながら、ふと蛍は先程の松風の言葉を思い出していた。





『他の女郎が喉から手が出る程欲しがるような上等な男を、二人も手中にしちまうんだ。花魁なんて格付けなくても、あんたはあたいの知る中で最高の遊女だよ』





 初めて、真っ直ぐな言葉で松風に褒めて貰えた。
 受け取った時は上手く言葉にならない程に胸を熱くさせてしまったが、思い返せば〝二人〟という単語に思考が止まる。


(…もしかして、天元のこと言ってたのかな)


 喉から手が出る程かはわからないが。言い合いを続ける目の前の二人が、身形と比例して派手に稼ぎの良いことは知っている。

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