第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
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「千坊…お前、煉獄と同じ大食漢だったか?」
「え? 人並みには食べますが、兄上程は…なんでですか?」
「なんでってお前。この土産の量だよ。煉獄が欲しがるならまだしも、全部お前選びだろ」
しげしげと天元が見上げるは、自身が片手で担ぎ上げている大きな風呂敷。
その中には、千寿郎があれやこれやと表の商店街で選んだ土産が入っている。
甘味類の他は主に食材だ。
千寿郎自身は物欲しそうに見ていただけだったが「ならば買おう」と千寿郎の財布の如く、杏寿郎があっさり買い占めていくものだから、瞬く間に風呂敷は膨らんでしまった。
「この街の料理、どれもとても美味しかったんです。同じものを作れるかわかりませんが、ぜひ父上にも味わって頂きたいと思いまして」
「…泣かせるねぇ」
千寿郎の父、槇寿郎のことは義勇や実弥達他柱より認識のある身。
だからこそ堕ちた元柱を曇りなき眼で慕う少年の姿に、天元は言葉を噛み締めた。
「でも、あの、すみません。全て宇髄様に運んでもらうなんて…」
「いんだよ、俺がやりたくてやってるし。お前の兄貴にゃなれねぇが、兄貴分だとでも思って使ってくれりゃあいい」
ぺこぺこと頭を下げる千寿郎に、気にした様子なく天元は軽く笑う。
杏寿郎にしきりに「弟は可愛いものだ」と話を聞かされていた時は、所詮他人の感情だと冷めた心地で聞いていた。
しかしいざ千寿郎と関わってみると、強ち杏寿郎を否定できないものだと悟ってしまった。
非力でありながら、今の自分にできることをと精一杯前を向こうとする姿は、つい背を押してやらずにはいられない。
また幼い少年には危なっかしさもついて回る為、ついつい目をかけてしまいたくなるのだ。
(何よりあの煉獄親子と全然似てねぇ)
厳格な表情の似合う元柱・槇寿郎にも、快活な笑顔の似合う現柱・杏寿郎にも感じ得なかった愛らしさが、千寿郎にはある。
顔は似ても他は似つかず。
自分の実弟もこんな少年であれば、多少は情ができたかもしれないという思いは考えに至る前に即打ち消した。
千寿郎は千寿郎。
実弟は実弟だ。
「それに俺の仕事は"そこ"までだしな。ほら、もう着くぞ」
切り替えるように、徐に天元が顎で先を促す。
其処には、来た時と同じ列車を待機させた駅の入口があった。