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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔



 艶(あで)やかと言っても、鬼殺隊本部で見かけた時とはまた違う。

 例えるなら、視線の送り方。
 杏寿郎を見る時だけ、その瞳の奥に一瞬の艶を感じるのだ。

 夜を誘う女達の目色とは違う。
 何を求めることもなく、ただただそこに在る。
 見つめる先の存在を、愛おしむように。


「ただしそういうもんは煉獄の前でだけにしろよ」

「何が…」

「ま、俺の前でも問題はねぇけど」

「だから何がっ?」


 忠告など不必要だとわかっていたが、突っ込まずにはいられなかった。





『君の知らない蛍のことも、俺は知っている』





 昨夜、別れ際に杏寿郎にはっきりと告げられたことを思い出す。

 その言葉は否定しない。
 しかし蛍の機微に気付けるのは、何も一人だけではないのだ。


(俺ってば本当、優しい奴)


 そこまでわかっていながら踏み込まない自分は、なんて優しいのだろうと上辺の思いで呑み込んで。
 わしゃりと蛍の髪を崩す勢いで掻き撫でた。


「頭ぐしゃぐしゃになるんだけど…っ」

「そーかそーか。シケた面のままだったらこれくらいじゃ済まなかったけどな」

「銀髪美形に比べれば誰だってシケた面になりますけど!?」

「お。そりゃ一理ある」


 段々と声が上がる蛍に、それをも上回る声量で杏寿郎が割り込んでくるのは──これより二秒後。











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