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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔



「昨日からお前らが何度も余所であれこれやってる間、俺と千坊は待ちぼうけ喰わされてんだよ。そりゃ交わす会話も多くなるし、距離も縮まるわな。お前、兄上の癖に弟を寂しがらせてんなよなー」

「う、宇髄様…っ」

「家でも長いこと待ちぼうけ喰わされてるってのになぁ。折角の兄弟での遠出まで待たされるってなんだ、苛めか? 千坊はこんっなに良い子なのによぉ」

「わ…っ」

「あいつに愛想尽かしたら俺ん所来いよ。弟なら今更一人増えたって構やしねぇし」

「俺が構うのだが!? その巨躯を千寿郎に纏わり付かせないでもらえないか、目に余る!」

「やなこった。千坊は嫌がってねぇんだから無理に距離取らせようとすんなよ。そういうとこが逆に千坊の世界を壊すことになるんだって気付いたらどうだ、弟馬鹿上様」

「お…ッば…!?」

(…今回ばかりは何も言えないや)


 がしりと太い腕で千寿郎の肩を組む天元。
 更にはわしゃわしゃと頭を掻き撫でる為、逞しい筋肉にあっさりと小さな顔は埋もれてしまう。
 そこへ杏寿郎が物申せば、さらりと躱した天元に返り討ちにあってしまった。

 花街を訪れてからというものの、おぼこ囮作戦の後といい、今朝のことといい。千寿郎を待ちぼうけの身にさせてしまったことは事実。
 今回ばかりは反論の余地はないと、ショックを受ける杏寿郎の隣で蛍は一人肩を竦めた。

 天元は口は悪くも、面倒見の良い男だ。
 二人の帰りを待つ間、つきっきりで千寿郎と向き合い相手をしてくれたのだろう。

 元々柱には、尊敬を抱いている身。
 兄の代わりともなるような役をこなしてみせた天元に、千寿郎が心を開くのも無理はない。

 天元の言う通り、筋肉に抱き込まれながらも嫌がる素振りを見せない千寿郎に、杏寿郎の顔が衝撃で固まる。
 ぽんと蛍がその背を軽く叩いて頸を横に振れば、間もなくして太陽のような男は地に沈んだ。


「宇髄、様…言い過ぎ、ですよ…」

「いーんだよ、お前が我儘言わない代わりだ。じゃなきゃ不平等だろ。偶にはしっかり反省させとけ」

「…でも…」

「ってことで、隙あらば俺が貰うからな。目に届く距離にいる時は、しっかり弟も愛せよ。兄上サマ」

「う……面目ない…」

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