第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
きめ細やかな肌に額を重ねて深く息をつく。
どれくらいその心地良い微睡みに浸っていただろうか。
「は…ぁ…」
夢心地にも感じていた杏寿郎を引き戻したのは、憂いにも熱にも似た柚霧の吐息だった。
「柚霧…体は、どうだ。負担はないか…?」
「はい…気持ちよかった、です…」
様子を見るように横から表情を伺えば、頬を上気させたまま微笑む柚霧が見えた。
共に気持ちよくなれたことへの安心感もあったが、それ以上に胸の奥が熱くなる。
このままずっと体温を分かち合っていたいが、背後から柚霧に伸し掛かるように組み敷いた体制は、どうしても体重が彼女にかかってしまう。
「すまない、重かっただろう。今退こう」
「ぁ…大丈夫ですっまだそのままで…っ」
「む?」
名残惜しくも体を起こそうとすれば、慌てた柚霧が振り返り腕を掴んだ。
「まだ、杏寿郎さんとこうしていたいんです。…離れないで、ください」
縋るように乞う中にも甘えが見える。
果てたばかりの柚霧の体は高揚し、瞳は濡れ、語尾にも色艶が残っている。
そんな柚霧に離れないでと言われて何も感じない訳がない。
一瞬動きを止めて固まった後、次に移る杏寿郎の行動は速かった。
バチンッ!
「き、杏寿郎さん…!?」
突如として杏寿郎の横っ面を叩いたのは自身の掌だ。
「な、何を…大丈夫ですかっ?」
「無論! 何も問題ない!」
頬が真っ赤に染まる程に勢いよく叩き付けた顔で、驚く柚霧に向けたのは清々しい程に邪気のない笑顔。
「柚霧が望むなら、ずっとこうしていよう」
「ぁ…」
甘い柚霧との情事後を堪能するには邪(よこしま)な欲は今は邪魔だ。
右手は未だ柚霧の手を上からシーツに押さえ付けたまま。ゆっくりと負担のないように膝で体を支えたまま覆い被さった。
「柚霧に与えた精が、体内に吸収されるまで多少時間も必要だろうしな」
「ん…はい」
人間同士であれば後孔に精を放つことなどしなかった。
下手をすれば腹を下して体調を崩してしまう可能性もある。
だが柚霧は鬼だ。
与えた杏寿郎の精こそが彼女にとっての食事であり、糧となる。