第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
興味を強く引いた瞳が光る。
杏寿郎が前のめりに顔を寄せれば、比例して柚霧は後ろに仰け反った。
「柚霧が恥じらう様なら、尚更この目に焼き付けたい」
「そ…んな、痴態…杏寿郎さんの前で、晒せません…」
「俺を受け入れる為の準備だろう? それが痴態なものか」
「ですが…」
「柚霧」
「…っ」
一歩、膝立ちで距離を縮める杏寿郎に。
一つ、後ろ手をついた柚霧が逃げ場を失う。
欲を灯しながらも、杏寿郎の目は曇りのない光も宿している。
男として知り得たいという思いも本物なのだろう。
色欲に染まりながらも、己の筋を通すこともできる。それが煉獄杏寿郎という男だ。
そんな真っ直ぐな想いを向けられては、柚霧も直視し続けられなかった。
「っ…杏寿郎さんは、時々、ずるいです…」
「そうか?」
「そんなに強い芯、私じゃ折れそうにもありません…」
「こと君に関しては、譲れないことも多くなるからな。折られては困る」
ぽすりと、観念したように柚霧の顔が杏寿郎の肩に落ちる。
その頭に優しく手を添えて、杏寿郎は満更でもない顔で笑った。
「…別料金、頂きますからね」
頭を包む掌の体温も、含み笑う声も、心を穏やかに変えてくれる。
恥じる行為を強いられているというのに、甘くも感じてしまうのだ。
そんな空気を吸ってはどうしようもないと、柚霧は抵抗にもならない抵抗を口にしながら、ゆるりと袖を上げた。
中から取り出したのは、小さな白い包み紙だ。
「それは?」
「通和散、という代物です」
「つうわさん? 知らないな……これもそれと同じ用途で使うものなのか?」
「これ?…っ!」
柚霧が腕を抜く際に、ぽとりと袖から転がり落ちたものがあった。
それもまた包み紙の形をしており、色合いは正反対に墨に浸したかのように真っ黒だ。
しかしそれを見た瞬間、拾い上げた杏寿郎の手から瞬く間に柚霧が奪い取った。
「柚霧?」
「そ…れは、関係ありませんっ」