第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
「!? 私、気に障ることを…っすみませんッ」
「いや。柚霧に苛立った訳じゃないんだ」
(いらだ…っ!?)
「君の背後に見える男達に、どうしようもなく感情が沸き立っただけだ。気にするな」
(気にします!)
ふーーっと長めの呼吸で息を整えると、杏寿郎は後ろから柚霧を抱き竦めた。
痛く苦しむ柚霧の体を、好き勝手に蹂躙した男達がいたのだ。
そう考えるだけで抱く腕に余計な力が入りそうで、落ち着けと自制する。
「痛い思いなどさせない。と言いたいところだが、如何せん俺も性交の手練手管など身に付けていないからな…今回ばかりは勝手なことを言えない」
「…杏寿郎さんはいつもそう言っては、優しく抱いて下さいました。苦しいことだって、気持ちよく感じられたのは杏寿郎さんにだけです」
「…柚霧…」
「それに、まだ一つ。私が伝えたいことは別にあります」
「む?」
肩に乗る杏寿郎の顔から逃げるように、顔を背ける。
それでも柚霧の晒した肩や、髪を上げて覗く耳や首筋はよく見えた。
「…私が痛がっても、どうか…止めないで、欲しいんです」
陶器のように白いその肌が、赤らむ様も。
「しかしそれでは、他の男達と何も変わらない」
「いいんです。痛くても、苦しくても。杏寿郎さんに与えられたものなら」
縋るように、柚霧の手が抱く杏寿郎の腕に触れる。
「今までの痛みを杏寿郎さんで上書きできるなら…その痛みが、欲しいんです」
蚊の鳴くような声だった。
それでも語尾まで、しかと耳にした杏寿郎は開眼した目を尚も見開いた。
赤く染まる頸や肩を竦めて告げる柚霧の姿から、目が離せない。
どんな顔をしているのかもわからないのに、自身の血脈がどくりと騒ぎ打つのを感じた。
痛みなど与えたいはずはないのに。
その痛みでこの先ずっと柚霧の体をものにできるのなら、刻み付けたいと強く望んだ。
「いいんだな? 一度受けたら、もう言い違いだったなどと聞かないぞ」
返事はなかった。
それでも僅かに頷く柚霧の仕草一つで、十分だった。