第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
杏寿郎の欲で解された蜜口は、潤いを残している。
そこを太い指先で撫でられ、ひくんと柚霧の顎が上がる。
それでも杏寿郎の手は止まらなかった。
「いいや俺は知らない」
「なん──」
「君のここで感じたことはないな」
桃尻を撫でるようにして滑る指先が止まったのは、小さな蕾の前だ。
杏寿郎が何を求めているのか。
ようやく理解した時、色艶の混じる吐息を零しかけて柚霧は息を呑んだ。
「だから暴かせて欲しい」
杏寿郎により快楽を教え込まれた体は、その言葉と後孔に触れる指先だけでじんと熱を帯びた。
「べ…別料金ですッ」
「わかった支払おう!」
「高いですよっ?」
「言い値で良い!」
否、それだけではない。
はっきりと赤く染まる顔は、強い羞恥心からだ。
思わず捲し立てる柚霧に、秒で返す杏寿郎は清々しい程の潔さがあった。
「です、が…」
体を重ねることに恥じらいを見せながらも、抵抗の一つも見せなかった。
その柚霧が初めて語尾を濁す姿に、細い腰を抱く杏寿郎の手に力が入る。
逃がさないと言うように。
「俺は君を買ったんだ。ならばこの体は、隅々まで俺のものだろう?」
間近で見上げる二つの金輪は、まるで獣のようだ。
欲を交えて求める瞳に、逸らすこともできず柚霧は声を詰まらせた。
「無論、本気で君が嫌がることはしたくない。だがもし、ほんの少しでもそこに踏み入る余地があるのなら…逃げてくれるな」
肌を舐めるように触れる息。
静かだが有無を言わさぬ声に、ぞくりと背筋が震える。
詰まらせていた口を開いて息をつくと、柚霧はこくりと小さく頷いた。
「…私のこの夜は、全て杏寿郎さんのものです」
この体と時間を好きにできるのは、買い取った杏寿郎だけだ。
今までの男達が相手なら、追加料金をふんだんに取っても躊躇していただろう。
相手が杏寿郎だから抗えない。
捕食の目を向けられて、肌が期待で震えてしまう自分には。