第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
互いに向き合う形で、二つの体が布団に沈む。
布団と腕の温もりに、柚霧は静かに埋もれた。
「でも、自分の生き方が哀しいものとは思っていません。稼いだお金で、姉さんが私にしてくれたように、美味しいものを食べさせてあげられましたし。殿方達が話す経験や物語は、私の知らないものばかりで世界が広がりました」
それに、と呼吸を置いて。
目の前の温もりに顔を埋める。
「此処で生きたから、私は鬼に成って。鬼に成ったから、杏寿郎さんと出会えた。一つでも道筋が違っていたら、私はこの温もりを知らなかったはずだから」
包むように抱きしめていた腕が、尚も離すまいと力を込める。
険しい表情を緩めることなく、杏寿郎はじっと虚空を見つめていた。
「……柚霧」
「はい」
「何故君は、鬼に成ったんだ? 蛍であることより柚霧であったことが関係しているのなら、今の君から、教えて欲しい」
一言一言。言葉を選ぶように告げてくる杏寿郎の声は、急かすような響きではない。
静かな声は耳に心地良く残る。
嫌な感情は一つも浮かばない。
赴くままに、ゆっくりと口を開いた。
「私の命は、鬼舞辻無惨に拾われたんです」
どんな答えがきても、もう驚きはしないと思っていた。
柚霧の体を粗末に扱っていた男達への怒りを、超えるようなものはないと。
それでも言葉を失うには、それは十分な答えだった。
「私は禰豆子や珠世さんのように、無惨の手によって人としての命を終わらせられたんじゃありません。…その命を失くしかけた時に、拾われたんです」
「…どういう、ことだ…?」
ようやく開いた口は、思うように声を紡いでくれなかった。
険しいままの顔が歪む。
一体どういうことなのか。
鬼舞辻無惨こそが悪鬼の元凶だ。
存在そのものが人間にとっては脅威なはずだ。
その存在に命を拾われたとは。