第6章 柱たちとお泊まり会✔
そう気付いた時には、既にその巨体は目の前にあった。
ぬっと井戸ごと覆い被さる大きな影。
数珠を手にした両手を合わせて、私を見下ろしていたのは──あの感情のない白い眼だ。
「…っ」
息が詰まる。
自分の体を喰らうことにいっぱいで気付かなかった。
いや、ただ気付けなかったのかもしれない。
杏寿郎だって、傍に来た気配を気付けなかったと言っていたんだ。
この…悲鳴嶼行冥の、気配を。
「可哀想に…人を喰らう代わりに、己の肉を喰らっているのか…」
突然のことで動けない私を見下ろしながら、頭を垂れる。
その白い眼の縁に、透明な雫が浮かんだ。
あれは…なみ、だ?
息を呑む。
みるみるうちに目の縁に溜まり、零れ落ちたのは紛れもなく涙だった。
私に頭を垂れながら、両手を合わせて泣いている。
…なんで?
「己の欲も制御できず…自ら血を流すことでしか生き永らえないとは…嗚呼…なんと哀れな…」
哀しんでいる?
私、を?
「可哀想に…南無阿弥陀仏…」
可哀想…かわいそう?
溢れるばかりの涙と嘆きを向けられているのに、胡蝶しのぶと話した時と同じ。
急速に、自分の周りの温度が下がるような感覚がした。
かわいそうって、なんだろう。
なんで寒気がするんだろう。
『あの子だよ…ほら、病気の姉を抱えて…』
『まぁ…それであんな仕事を?…可哀想に』
──あ。
そう、だ
そういう目は鬼になる前にも向けられていた。
すれ違う人や、店に来る客なんかからも。
そこには同情と哀れみの中に、微かな軽蔑のようなものを感じることもあった。
"可哀想"と、自分の物差しで私の人生を計って哀れんでくる。
私の何を、知っている訳でもないのに。
上からものを見るように、蚊帳の外から見るように、哀れんでくるんだ。