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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔



(待て。だが蛍とは、"そういう"話をしていた最中だった。半端に終わっているあの話は、無かったことにはなっていない…はずだ。そもそも飢餓が出ているのならば、無かったことにはできない。蛍の飢えは大丈夫なのか?)


 腕組みをしたまま、前屈みに頭が下がる。


(となれば体を交えることも含んだ意味合いで…いや、蛍に食として精を与えるという意味でも必要なはずだ)


 うむ、と無言で頷く。


(宇髄には時間を貰っている。問題ない。千寿郎も、蛍に糧を与えていたと話せば呑み込めるはずだ。問題はない。後は蛍の心だが──…この場合は柚霧か)


 む、と頸が横に傾く。


(そもそも本当に"柚霧"との時間を買えたのか? 顔は見ていないが、声は蛍のままだった。…いや、二重人格などではないんだ。柚霧は蛍。何も違わない。稀に見る顔が、別の女性のように見えていただけで、あれも結局は蛍の一面だ)


 悶々と考え込みながらも、答えは自ずと出てきた。
 柚霧と向き合うと言っても、蛍であることに変わりはない。

 そう納得できると、改めて心が逸る。

 彼女はまだか。
 どんな心持ちで訪れるのか。
 なんであろうとも、自分のすべきことは変わらない。
 その声に耳を傾けて、その目を見つめて、その心に手を伸ばすだけだ。

 姉の死を改めて見つめ直して、何か心を揺さぶられたのだろうか。
 思考は現実的でありながら、どこか泡沫の中を彷徨っているようにも見えるのは、彼女が鬼だからか。
 それとも花街の色香をほのかに残しているからか。

 ──なんであってもいい。


(早く、会いたい)


 ほんの少し離れているだけなのに、恋しく思う。
 その鮮やかな緋色の瞳に、自分を映して欲しいと願う。

 最後に目にした顔は、迷子にならないようにと袖の先をちょこんと握りはにかむ顔だった。
 早く、またあの顔が見たいと。


 ──トン


 襖の向こう側で人の気配がした。
 足音は一つだけ。
 膝を折り廊下に座する人影が、やんわりと口を開いた。


『お待たせ致しました』

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