第6章 柱たちとお泊まり会✔
「夜更かしは駄目ですよ。これ、休息稽古なんですから」
「……」
「それとも寝られないんですか?」
的確に考察してくる胡蝶しのぶに、なんと返したらいいのか。
何も思い浮かばずじっと口を結んでいる私に、枕に頭を乗せて視線だけ向けてくる。
「冨岡さんと一緒に寝るなんて息が詰まりますもんね。わかりますよ」
それは…その…当たってるかも、しれないけど。
「あんまり息苦しかったら、私の布団も半分使っていいですよ。はんぶんこずつにして間で寝れば少しは冨岡さんから距離を置けるでしょう?」
あれ…意外、だ。
そんな優しい気遣いをくれるなんて。
思わずまじまじとその顔を見返せば、にこりと笑顔を向けられた。
いつも優しい口調で話し掛けてくるけれど、底は知れない。
それが胡蝶しのぶという人間だ。
その優しさの裏にどんな意図があるのかわからないけど、布団をはんぶんこにさせて貰うのは良い案かもしれないと思った。
でも冨岡義勇から離れれば必然的に胡蝶しのぶに近付くことになる訳で…それはそれで、ちょっと怖い。
そんな迷いで動けずにいると、ああと何かに気付いたように頷かれる。
「心配しなくても、貴女に限界がきたらさくっと殺してあげますから。大丈夫」
にっこりと優しい笑みを向けられる。
だけどその口からついて出たのは、笑顔にはそぐわない言葉だった。
「頑張って我慢していらっしゃいますもんね。苦しまないように、痛くないように、私も誠意を持って応えてあげますから」
ね、と柔らかい声で相槌を打たれる。
けれど、そこに私は何も返せなかった。
急速に自分の周りの温度が下がるような、そんな感覚。
底が知れないことはない。
胡蝶しのぶの底は、知っていた。
知っていたはずなのに、何故そこに一瞬でも淡い期待を抱いてしまったのか。
「あれ? 寝ないんですか?」
もそりと布団の中から抜け出す。
だけど胡蝶しのぶの誘いには乗らずに、丈の合わない着物を引き摺りながら向かったのは廊下へと続く襖。
「逃げ出したりしたら殺されますよ?」
…逃げ出すつもりはない。
そんなこと十分わかってるし、そのつもりならとっくにそうしてる。