第6章 柱たちとお泊まり会✔
不思議と体を幼いものに変えていれば、その衝動もあまり強くは表れなかった。
怪談話をして他のことに気を紛らわせていればまだ我慢ができた。
でも静寂の中でじっとしていると、じわじわと体の奥底から"それ"がやってくる。
腹が減った、肉を喰らえと。
わかっていたんだ。
自分が鬼だってことは、もうとっくの前から。
でも、こんなこと初めてだったから…蜜璃ちゃんの言う"お泊まり会"なんてものは。
私は他人と就寝を共にすることもままならない体になってしまった。
そう、改めて思い知らされた気がした。
「…っ」
落ち着け。腹を空かせるな。
こんな所で自分の肉を喰らうことはできない。
すぐ隣には私の頸を瞬時に跳ねられる男がいるんだ。
でもこれが杏寿郎じゃなかったのは幸いだった。
絶対に回避したいことだけど、もし万が一、人の血肉を求めてしまったら。
…だから頑(かたく)なにでも杏寿郎の誘いを断った。
後はこの夜を耐え抜けばいいだけ。
ただひたすら気配を押し殺して我慢するのは酷く根気のいることだったけど。
藤の檻では誰も見ていないから、遠慮なく醜態を晒せたけど…此処では絶対に無理だから。
じっと潜り込んだままでいたら熱がこもって、体の内側からも熱くなってくる。
息苦しさを覚えて、ほんの少しだけ布団の隙間から顔を出してみた。
「…すー…」
「むにゃ…おいし…」
すぅすぅと微かな寝息と、蜜璃ちゃんの寝言のような小さな声が聞こえる。
布団の中にこもっていたから既に夜目には慣れていた。
ゆっくりと見渡せば、皆目を瞑っていて一見ちゃんと寝ているように見える。
ただ一番近くにいる冨岡義勇からは寝息の一つも聞こえない。
普段から呼吸音も静かな人だから当然かもしれないけれど…。
「まだ起きていたんですか?」
「っ」
驚いた。
辛うじて声を出すことは防げたけど、いないと思っていたはずの声に思わず振り返る。
暗闇に慣れた目に映ったのは、僅かに開けた襖の隙間から滑り込むようにして部屋に戻ってきた胡蝶しのぶだった。
悲鳴嶼行冥との用事が終わったんだろう。
足音一つ立てず自分の布団に入り込みながら、隣で僅かに顔を出していた私に笑いかけてくる。