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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔



「柚霧は、その時の源氏名。…人の欲はどんなにあっても尽きないものだから、良くも悪くもお金になる。その欲を利用して、食らって生きていた」


 淡々と語る蛍の声に感情の起伏はなく、どんな顔をして話しているのか予想もつかない。

 ただ振り返られなかった。
 今振り返ってしまえば、蛍が初めて語る柚霧の面影を、逃してしまう気がして。


「だから私も、欲の塊のこの街と結局は同じ」


 額を杏寿郎の背に預けたまま、垂れる髪で隠れた蛍の表情は誰にも見えない。


「だから…私は、綺麗じゃないの」


 この街だけの金魚でいた頃。
 相手の顔もろくに見ることなく、淡々とすべきことをして日々を過ごしていた。

 仕事に利用できる相手ならどんなに悪趣味な嗜好にも興味を持ったフリをしたし、愛嬌だってそれなりに振り撒いた。
 逆に一銭にもならない相手は、顔も名前も声すらも記憶しなかった。

 松風や東屋とは違う。
 我欲の為に山程利用して咀嚼してきた相手の欲。
 それらは時を重ねるごとに体の至る所に嵩張(かさば)り、未だにこびり付いているようだ。
 燻(くすぶ)る汚れそのもののように。


「杏寿郎が、"そういう"ことに偏見を持たないことは、もうわかってる」


 鬼殺の猛りを静める為に、初めて娼婦を抱いたその日のうちに、後悔を抱いて辞める決断ができた杏寿郎のことだ。
 鬼殺にも娼婦にも、真摯に向き合っていたからこそのこと。
 そんな杏寿郎が軽蔑などしないことは、十分わかっていた。


「でも、何も感じさせない訳じゃないから」


 だからと言って、無闇にその心を振り回したくはないのだ。
 何事にも真っ直ぐ過ぎる程に、向き合ってくれるからこそ。

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