第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
「あ、ああ。俺は菊葉ちゃんの源氏名しか知らねぇからよ。そんな仮初のもんでしか供養できなくてな…」
「作って、くれたんですか? わざわざ」
「それは──…」
不意に東屋の声が途切れる。
片時も逸らそうとしない蛍の瞳を見返して、ふと優しく口元を緩めた。
「なァ、柚霧ちゃん。ちょいと俺につき合ってくれねぇかい?」
「え?」
「見せたいもんがあるんだ」
果たしてそれがなんなのか見当もつかない。
ただここで断る理由も見つからない。
宿屋の外出は控えてある。
答えを求めるように、蛍は杏寿郎へと振り返った。
「…ならば俺も同行しよう」
互いの会話は半端に終わっている。
このまま有耶無耶にしていいとは思えず、だからと言って蛍の姉のことなら無下にもできない。
同行できるのなら外出も許可できる。
多くを語らず頷く杏寿郎に、蛍は初めて安堵の表情を垣間見せた。