第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
覆い包まれ、唾液を送られ、かと思えば強く舌先を吸われて足腰が震えた。
(食べられて、る、みたい)
杏寿郎の体液を餌として、捕食しているのは鬼である自分の方だと言うのに。
混じり合う熱と体液に、舌も唇も蕩けていくようだ。
力の入らない手から、握っていた浴衣をずり落とす。
ぱさりと浴衣の裾が床を滑る。
足元に落ちきる前に、杏寿郎の手がそれを掴み取った。
「気分は、どうだ?」
ゆっくりと濡れた唇が離れる。
いつの間にか窓際に追い込まれていた体は、尚も杏寿郎の着流しを離さなかった。
「少しは良くなっただろうか」
「ん…まだ、足りない」
触れていれば、求めていれば、心地良い想いに浸っていられる。
しかしそれだけでは足りないのだ。
「杏寿郎の……が、欲しい…」
直接言葉にするのは流石に躊躇った。
それでも一番に求めているものはそれだ。
「血か?」
違う。
「ならば道具を取って来ないとだな。一度部屋に戻」
「せ、ぃ」
「るか……?」
尚も強く、着流しの裾を握り締める。
自分でもわかる程の顔の熱量に、蛍は強く目を瞑った。
「精、が、欲しいの」
童磨に注がれたものは、できる限り取り除いた。
それでも体の奥の奥まで暴かれた暴力的な快楽が、未だ奥底に沈殿しているかのようで。
「杏寿郎の、精」
染め直してもらえたら。
上書きしてもらえたら。
きっとまた、過ぎたことだと笑えるようになるはずだ。
人の時もそうであったように。
「俺の、せい…?」
ぽかん。
そんな効果音がぴったりな程、丸く見開いた目で見てくる。
その顔を伺う余裕もなく、蛍は俯きがちにこくりと頷いた。
(せい…精?)
上擦った、辿々しい声。
俯く髪の隙間から覗く、赤い耳。
目の前の蛍の姿に、ようやく杏寿郎も状況を呑み込んだ。
「せ…ッゴホン!」
「き、杏寿郎?」
「いや。うむ」
途端に声量が上がりかけて、思わず咳き込む。
「少し、驚いただけだ。まさか君から求められるとは」