第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
腹は空いているかどうかもよくわからない。
ただ、触れて欲しいと思った。
童磨に嬲(なぶ)られた肌を、もてあそばれた口内を、暴かれた体の奥の奥を、杏寿郎に染めてもらえたら。
彼色に染め直してもらえたら。
そうしたら、このなんとも言えない腹の底からじわじわと沸いて出るような気持ち悪さも、消えるのだろうかと。
「飢餓が出ていたのか…気付かなくてすまない」
「…ううん」
労わるような声に、つきりと胸の奥が痛む。
違うと言いたい。
けれど言えない。
どうしても直視できなくて俯いてしまう顔に、添えられる大きな掌。
頬を包み持ち上げられるように優しく掬われて、視線が上がる。
「症状は如何程(いかほど)だ? 血でないときついか」
「…前に貰ったものと、同じでいい」
「では、口を」
催促するように、ふにりと親指の腹が優しく蛍の唇を撫でる。
こんな所で、なんて愚問は出なかった。
言われるままに口を開けば、そうと優しく、隙間なく被さるように同じ唇で塞がれる。
「んっ…」
慣れた舌先が、鋭い犬歯を避けて潜り込んでくる。
歯列を撫で、舌を絡ませ、上顎を擽られると、簡単に体は芯から痺れ上がった。
「ふ、ん…んッ」
ちゅくちゅくと互いの唾液が絡み合う。
こくりとそれらを飲み込めば、後ろ髪に指を差し込んだ杏寿郎が後頭部を掌で抱いてくる。
自然と蛍の顔は上がり、餌を強請るように唇の逢瀬をもっとと求めた。
(気持ち、いい)
息苦しさはあるものの、童磨の長い舌に犯された時に比べれば段違いに心地が良い。
擦り付け合う互いの粘膜だけではない。
腰を抱く太い腕も、髪を掻き撫で頭を包む掌も、頬をくすぐる焔色の柔らかな猫毛も。
触れた箇所から熱を帯びさせる、その体温も。
「は…っきょ、じゅ…ッ」
「ん、喋ると零れてしまうぞ。その声で名を呼ばれるのは好きだが、次の楽しみにしよう」
「んぅッ」
つぅ、と唇の隙間から零れ落ちる唾液が、蛍の顎を伝う。
一滴も取り零すまいと杏寿郎の舌が丁寧に舐め取り、そのまま深く口付けた。