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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔



「部屋を出たのにも理由があるからだろう?」

「…少し、外の空気を吸いたくなって…大層な理由はないよ」

「大層でなくても理由は理由だ。息抜きだって疲労した心と体には大切なことだ」


 近くで見れば、尚の事蛍の顔の青白さが伝わった。

 足腰はしっかりしている。
 それでも、どことなく不安げに見えるのは何故か。


「疲れが出たのか? よもやあの舞で無理をさせたのでは」

「ううん。大丈夫。影鬼を使うくらいの力は十分残ってるし、これくらいで疲れたりしないよ。寧ろ千くんの笑顔に沢山元気を貰った」


 握られていない方の手で拳を作り、にこりと笑う。
 白くも綺麗なその笑顔を見返して、本来なら嬉しさを感じる言葉なのに、杏寿郎は素直に頷けなかった。
 なんとも言えず唇を結ぶ。

 ふと、錆びた鉄のような臭いがした。

 炭治郎程、嗅覚が優れている訳ではない。
 それでも間近で血を見れば、感じ取れる程には杏寿郎も嗅覚に鋭さがある。


「血の臭いがする」

「え?」

「僅かだが…よもや、どこか怪我をしたのか?」

「あ……うん。誤って、自分の手で少し、肌を切っちゃって。ほら、私の爪鋭いから」

「どこを切ったんだ。見せてくれ」

「え。いや。もう治ったから。傷だって一つも残ってないよ」

「ならば見せても問題ないだろう?」


 頸を振る蛍をじっと見つめる。
 しつこいかとも思えたが、喉に刺さった小骨のような違和感を覚えてしまっていた。

 確かに蛍の爪は、禰豆子と同じに人の肌を傷付けられる鋭利さを持つ。
 しかしその爪で自分の肌を傷付けるような不注意を、起こしたことなど早々あっただろうか。


「見せてもいいけど…太腿だよ。見る? 此処で。捲る? これ」

「む…」


 人気はないにしても、公共の場。
 誰が通るともわからない場所で、蛍の際どい肌を露出させる訳にはいかない。

 思わず再び唇を結んでしまう。

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