第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
くノ一の生き方もまた夜伽(よとぎ)のような任務を多く含み、暗殺も時に強いられる。
跡継ぎを生む為の道具とされることも珍しくはない。
だから忍は一夫多妻制なのだ。
そんな世界から隔絶する為に、また妻を守る為に、天元は抜け忍となった。
(だからわかるんだよ)
夜伽とは、主に異性と交接する仕事。
現に今、雛鶴達は吉原遊郭で遊女として潜入捜査を行っている。
年端もいかない子供ではないのだ。
男に抱かれて当然の年頃の彼女達は、それなりの"覚悟"を持って任務に当たっている。
何も感じない訳ではない。
それでも夫の為にと体を張る雛鶴達を、天元もまた認めていた。
町娘のような潔白さを持たない彼女達を、心から愛した。
だからこそわかるのだ。
(蛍が手傷を負ったのは怪我だけじゃねぇ。最悪あいつの女としての部分を、蹂躙された可能性もある)
夜伽を終えて帰ってきた妻達の変化は、些細なものでも見落とさなかった。
そういう日は殊更優しく労り、抱いた。
だからこそだ。
最初こそは上弦の鬼に単純に怪我を負わされたのではと考えていたが、蛍の些細な変化を拾っていくうちに一つの予感が浮かんだのは。
和解か、はたまた契約か。
蛍が報告として口にしたのはそんなものだったが、そうだとは言い切っていなかった。
相手は上弦の鬼。
鬼殺隊の剣士をも掌で転がせる屈指の実力を持つ。
蛍に向けた条件が、和解や契約ではなく──身勝手な蛮行だとしたら。
(一番最悪な結果だが、何より俺の勘が言ってんだ。ないとは言い切れねぇ)
蛍の視線の流し方や、声の抑揚や、ふとした仕草。
些細な変化は本当に蚊の鳴くようなものだった。
同じ女であるしのぶや蜜璃ならまだしも、男であれば例え柱であっても気付かなくても可笑しくはない。
天元だからわかるのだ。
そういう世界にどっぷりと浸ってきた者だから。
「そして蛍とお前も違う。あいつはどっちかって言うと、俺に近い人種だ」
天元の探りを入れた問いかけに乱したのは奥底の心音一つだけで、他は淡々と通していた蛍もまた、そういう世界に浸かってきた者なのだ。