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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔



 露出した足首に巻かれた鮮やかなリボン。
 その少し上で、予備の帯紐を強く縛った。
 足が鬱血する程に、力任せに縛り上げる。

 まるで何かに急かされるように進めていく。
 勢いのままに飛び出してきたが、勢いがないとできないことだった。


(事を済ませて、痕跡を消して、松風さんには悪いけど汚れた浴衣は全部処分して…十分、日が昇る前に終わらせられる)


 頭の中で物事を順序立てながら、予備の浴衣の裾を己の口に詰め込んだ。


「ん、ぐ」


 喉が詰まる程に奥へと押し込み、声の一つも漏れないようにする。

 剣士ではない為に日輪刀は所持していない。
 しかしそれに代わるものならある。

 びきりと爪が鋭さを増す利き手に、影鬼を纏わせた。
 ドス黒いそれが手を覆い形成したのは、大きな刃を持つ斧のようなもの。

 この忌々しいリボンを外す方法は、一つしかない。
 その答えは既に童磨も口にしていた。





『外したいなら自分の足を切断するしかないね』





(大丈夫。一思いにすれば、鬼の力もあるから一度で斬れるはず。痛みは、あるけど、死にはしない)


 天元との実践訓練で、下半身を失う程の瀕死の怪我を負ったこともあるのだ。
 その時は爆撃の激しさに気絶してしまったが、杏寿郎との初任務で腕を誤って切断された時は意識を保てていた。

 死にはしない。
 意識も失いはしないだろう。
 流し場もあるから、処置もすぐに行える。
 一晩あれば、歩ける程にまでは回復するはずだ。


(大丈夫。どうせまたすぐ生えてくるんだから。トカゲの尻尾みたいに)


 言い聞かせるように頭の中で何度も繰り返す。
 鬼の体は、なんとも都合がいいものなのだ。

 それでも緊張と恐怖の所為か、呼吸は上がり脂汗が肌に浮いた。

 リボンと帯紐の間に影の刃を当てる。
 微かに震える手を抑え込むように、口の中の布地をぎちりと噛み締めた。


(大丈夫。大丈夫だから。痛いだけ。痛いだけ…っ)

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