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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔



 天冠(てんかん)の代わりに頭に挿した幾つもの煌びやかな揺れもの簪は、女郎が扱うものにも似ている。
 他にも衣装や、化粧道具なんかもそうだった。
 豪勢に天女の姿へと着飾られていく中、ついまじまじと松風を凝視すれば蛍の心境に気付いたのか。





『今まで培ったものを利用して悪いことなんてないだろ? あたいの生き方にケチ付けるんじゃないよ』





 そう潔く言い切っていた。
 その姿には竹を割るような清々しさがあり、否定することなど一つもないと蛍も口を閉じたのだ。


(にしても……眠れない)


 ころりと布団の中で寝返りを打つ。
 未だ興奮が治まらないのであれば仕方ないが、そうでもない。
 目まぐるしい一日だったからこそ心の疲労もある。

 借り部屋だから眠れないのか、と一瞬浮かんだ疑問は速攻打ち消した。
 枕が変わると眠れない体質ではない。





『寝屋はどうする。一人で寂しいってんなら、煉獄を寄越してやるけど』

『宇髄、そういう言い方は』

『いいよ。今日捕まえた男も、明日解放するまでは見張るんでしょ? それを任せてるんだから、こっちに人手は不要だよ』

『…む…だがあんな出来事があった後だ。蛍を一人にするのは…』

『大丈夫、隣の部屋だし。隔ては襖一枚だから、何かあってもすぐ伝わるだろうし』

『ま、違いないな』

『うむ…』

『それにどうせ一緒に寝るなら、私は千くんとがいいなぁ』

『えっ』

『この面子なら間違いなく千くんが一番癒される』

『わ、私ですかっ?』

『うん』

『はははッ! 煉獄お前、弟に蛍を搔っ攫われる日も近いかもしんねぇな!!』

『宇髄! 冗談にもならないことを言うな!』





 夜も更け、結局花街に一泊することとなった。
 大笑いしながら杏寿郎の背を遠慮なく叩く天元のお陰で、その場の空気は明るく終えられたように思う。

 千寿郎を言い逃げのダシにしてしまったのは悪いと思っているが、どうしても今は一人で眠りたかった。
 隣に異性の気配を感じてしまうと、眠れない気がしたからだ。


(…でも眠れない)


 しかしいくら目を瞑っていても、眠気はやってこない。
 布団の中で幾度も寝返りを打ちながら、ふと蛍はその原因を悟った。

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