第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
目に焼き付けていたくて、一瞬も逃したくなくて、見つめていた世界が滲む。
煌びやかな天女の姿が滲んでぼやけ、固く結んだ唇はわなわなと震えた。
「…ふ…っ」
ぽろぽろと、大きな金輪の幼い瞳から透明な雫が溢れ出る。
小さな体の中で膨れ上がった感情が、涙となって頬を伝った。
「とても綺麗な舞だ。千寿郎の涙を呼ぶ程に!」
そんな意味で涙を流した訳ではないことを、兄は気付いているだろう。
隣にいる天元の存在を知っての気遣いか。
声は快活な響きへと戻っていたが、上から包むように握る掌は、変わらず優しくて。
「っ…はい…」
僅かに口角を緩めて、千寿郎も頷いた。
(なんて綺麗な、世界なんだろう)
涙で滲む天女の舞は、正に雨に濡れた花のように──とても美しく。