第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
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ちん、と三味線が最後の音を震わす。
ぱちりと閉じた舞妓達の扇子が再び畳の上へと並ぶ。
腰を折り、指先を揃え、袖の流し方一つも揃えてお辞儀をすると、舞を終えた女達は静々と襖の奥へと消えていった。
音もなく襖が閉じると同時に、はぁっと千寿郎が大きな溜息をつく。
「すっごく綺麗でした…! あんなにも優美に踊る女性を見たのは初めてです…ッ」
「おーおー、興奮してんなァ千坊。ま、お前もそれでいて男だしな」
「えっ」
「宇髄。千寿郎に変なことを言わないでくれないか」
興奮で頬を赤らめている千寿郎をニヤニヤと天元が指摘すれば、更にぽっと幼い頬が染まる。
間髪入れずに、千寿郎の隣で同じく舞を楽しんでいた杏寿郎が、ずいと顔を出した。
「何、お前弟離れできてねぇの? 炎柱サマともあろう御方が」
「千寿郎は幾つになっても俺の弟だ。俺は幾つになっても千寿郎の兄だ!」
「うーわー…面倒臭ぇ感じに育ってんな、お前の兄上」
「君に兄上と呼ばれたくはない!」
「お前に言ってんじゃねぇよ。千坊に話しかけてんの俺は」
「え、えっと。お二人共…っ」
千寿郎を間に挟んで、あれやこれやと言い合う二人に、当人は中心でしどろもどろになる始末。
「喧しいねぇあんた達。何処に行ってもそんな態度なのかい底が知れるね!」
「わっ」
「お松」
「む!」
スパァン!と小気味良い音を立てて襖が勢いよく開く。
二人の騒音を鶴の一声で止めたのは松風だった。
「それならお松だって客の俺らにその態度は」
「お松殿! それよりも蛍を見なかっただろうか!?」
小言の一つでも天元が向けようとすれば、それよりも早く立ち上がった杏寿郎が声を上げた。
「追加分の料理でも取りに行ったのかと思ったが、どうやら違うようだ。見てはいないか!」
「柚霧ならあたいが預かってるよ。それより座んな。芸事はまだ」
「なら蛍は何処に!?」
「まだ終わっちゃいないって」
「言えない都合があるのか?」
「言ってん」
「ならば尚更捜さねばなるまい!」
「あたいの声が聞こえないのかいあんた!?」
「諦めろ、お松。そいつはこと蛍が関わると極端化する奴だ」