第23章 もの思へば 沢の蛍も 我が身より✔
「お、お客様。それはわたくし共の仕事ですので…っ」
「いいんです。私、手が空いてるんで。女中さん達は他の接客もあるだろうし、料理は此処に置いてくれれば私が配膳していきますよ」
「ですが…っ」
主に杏寿郎と天元によるものだが、どんなに大量の料理や酒を運んでも瞬く間に次を催促される。
流れ作業のように慌ただしく往復する女中達に見兼ねて、蛍自ら買って出たことも理由の一つだ。
申し訳なさそうに頭を下げる女中達に笑顔を向けていれば、昂然とした声が蛍の背を叩いた。
「全く! あんたって奴は、足を洗ったってやってることは変わっていないじゃないか!」
「あ。松風さん」
「その名で呼ぶんじゃないよ。此処では女将と呼びな!」
「女将さん」
振り返れば、派手ではないが質の良い着物に身を包んだ松風が立っていた。
「あんた此処の料理を一口も食べてないね? まだ断食みたいなことやってんのかい」
「え、と…そういうつもりじゃ」
「それとなんだいその世話焼き癖は。あんたは此処の働き手じゃなくお客だろう。あの異邦人共みたいに、同じくおまんま食い散らかしてふんぞり返ってればいいんだよ!」
「ええ、と…」
「おいお松。騙って聞いてりゃ異邦人異邦人って、俺らは生粋の日本人だぞ! 見ろこの美形を!!」
「料理はどれもとても美味い! 全て大事に頂いている! 食い散らかしてなどいないぞお松殿!!」
「口に飯入れたまま叫ぶんじゃないよ言ってる傍から食い散らかしてんだろ!! 美形がなんだってんだ銭がなきゃ顔が良くてもお払い箱だね!!」
「おお…言ってくれるぜお松の奴…威勢の良い女だ」
「天晴れだな!! 聞いていて気持ちがいい!!」
酒を分解する体を持っていても、大量にアルコールを摂取している所為か。ほろ酔い気分でいつも以上にノリ良く絡む天元に、杏寿郎は通常運転だったが料理のお陰かやはり機嫌は良い。
「あたいに世辞を向けたって何も出ないよ。それよりあんたら芸者も呼んだだろ? 精々持ってる銭を落とせるだけ落としていくんだね」
「おっ、待ってました!」